第8話

 夏がきました。


「カブールからの帰り道に父さんが地雷を踏んだの」少女は屈みこんで言いました。


「それは残念だ」地雷は言いました。


「右足の膝から下を失ったの」少女は泣いていました。


「それは残念だ」地雷は言いました。


「病院のベッドの上で苦しそうに呻[うめ]いているの」少女は顔をしかめました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「『ソ連兵を皆殺しにしてやる!』と叫び散らすの」少女は言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「『ひとおもいに殺さず、なんて屈辱な体で生かすのだ!』と叫ぶの」少女は言いました。


「兵力をより削ることができるからだ」地雷は偉そうに言いました。


「『地雷はこの世で最も卑劣な兵器だ!』と罵[ののし]っていたの」少女はさらに泣きました。


「同感だ」地雷は言いました。


「『姿を隠して無差別に攻撃する最も臆病な兵器だ!』と叫んでいたの」少女は言いました。


「同感だ」地雷は言いました。


「あなたはなんで姿を隠さないの?」少女は訊ねました。


「ソ連兵が手を抜いたからだ」地雷は言いました。


「あなたはまぬけなのね」少女は言いました。


「ソ連兵がまぬけなのだ」地雷はむっとしました。


「あなたを踏む人はいるのかな?」少女は言いました。


「だれかしら踏むだろう」地雷は言いました。


「たぶんいないよ」少女はさらに言いました。


「だれかしら踏むだろう」地雷はむっとしました。


「だれにも踏まれないでね」少女は首をひっこめました。


「それではわたしの生まれた意味がない」地雷ははっきり言いました。


「わたしもう学校行かない」少女は言いました。


「それは残念だ」地雷は言いました。


「父さんの分まで働かなきゃ」少女は泣きました。


「悲惨だ」地雷は言いました。


「早く弟が育って欲しい」少女は言いました。

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