第5話
夏がきました。
「村のお姉さんが地雷を踏んだの」少女は屈みこんで言いました。
「それは残念だ」地雷は言いました。
「太ももから下が失くなっちゃったの」少女は目を細めて言いました。
「それは残念だ」地雷は言いました。
「村はずれで薪[まき]を拾っていたら踏んだらしいの」少女は言いました。
「それは残念だ」地雷は言いました。
「あなたも同じ地雷なの?」少女は訊ねました。
「わたしも地雷だ。だが同じ種類の地雷かわからない」地雷は言いました。
「わたしがあなたを踏んだら足は失くなる?」少女はさらに訊ねました。
「木っ端微塵だろう」地雷は偉そうに言いました。
「あなたって本当は恐ろしい兵器なのね」少女は腕を組んで膝頭にのせました。
「当然だ」地雷はさらに偉そうです。
「お姉さんひどい声で泣いてた」少女は顔をしかめました。
「悲惨だ」地雷は言いました。
「家族もみんな泣いてた」少女はさらに顔をしかめました。
「悲惨だ」地雷は言いました。
「なんで戦士でもない村人を襲うの?」少女は訊ねました。
「踏んだからだ」地雷は言いました。
「戦士の時だけ爆発すればいいじゃない」少女は言いました。
「それは無理だ」地雷は言いました。
「なんで?」少女は大きな声を出しました。
「踏んだら無差別に爆発するからだ」地雷ははっきりと言いました。
「なんであなたみたいな恐ろしい兵器がこの世にあるの?」少女は訊ねました。
「戦争があるからだ」地雷は言いました。
「なんで戦争があるの?」少女はさらに訊ねました。
「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。
「あなたを嫌いになりそう」少女は言いました。
「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。
「わたしソ連兵が大っ嫌い」少女は言いました。
「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。
「小麦は立派に育ったよ」少女は言いました。
「それはなによりだ」地雷は言いました。
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