第3話

 朝晩の寒さが募[つの]り、木の葉は力なく散ります。アフガニスタンに秋がやってきました。


「昨日小麦の種蒔きが終わったよ」少女は屈みこんで言いました。


「それはなによりだ」地雷は言いました。


「来年はきっと豊作だよ」少女は言いました。


「それはなによりだ」地雷は言いました。


「また厳しい冬がくるね」少女は元気な声で言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「冬への準備は終わったの?」少女は訊ねました。


「準備など必要ない」地雷は偉そうに言いました。


「何もしないの?」少女はさらに訊ねました。


「何も必要ない」地雷は言いました。


「何も出来ないの?」少女は意地悪く言いました。


「何もする必要がないのだ」地雷はむっとしました。


「前の冬はどうやって過ごしたの?」少女は首を傾げました。


「ここにいた」地雷は言いました。


「ここ雪に覆われていたよ?」少女は言いました。


「雪の中にいた」地雷は言いました。


「風邪ひかない?」少女は訊ねました。


「考えたこともない」地雷は言いました。


「寂しくない?」少女はさらに訊ねました。


「考えたこともない」地雷は言いました。


「これをわたしだと思って寒さをしのいで」少女は頭を包んでいた紅梅色のスカーフをはずし、地雷に覆いかけようとしました。


「近づくな!」地雷は怒鳴りました。


 少女は笑いながら手を引っ込めました。


「強がりね、わたしの兄さんみたい」少女はスカーフを戻しました。


「強がりではない。必要ないのだ」地雷は言いました。


「わたしの兄さんは凧揚げが得意なの」少女は言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「鳥もたまげる動きで空を翔[かけ]るの」少女はうれしそうに言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「カブールの誰にも負けないって言うの」少女はさらにうれしそうです。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「わたしも兄さんの凧が一番だと思う」少女は言いました。


「凧とはなにものだ?」地雷は訊ねました。


「風に乗って空を翔る道具よ」少女は誇らしげに言いました。


「戦闘機か?」地雷はさらに訊ねました。


「あはは、違うよ」少女はうれしそうに笑いました。


「ではなんだ?」地雷はむっとしました。


「遊び道具よ」少女は言いました。


「くだらん」地雷は言いました。


「アフガニスタンの空は凧が似合うの」少女は空を見上げて言いました。


「わたしには必要ない」地雷は言いました。


「兄の凧がソ連の戦闘機を打ち落とせばいいと思う」少女は目を細めて言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。

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