第2話

 目尻の垂れたパシュトゥーン人の少女は、緑の破裂型地雷と友達になりました。少女は怒られるのが嫌なので、家族の者にも村の者にも、地雷のことは話しませんでした。少女は水を汲みに行くたびに、地雷とたわいもない話をするようになりました。


 太陽が地を照りつけ、空気の乾燥した強烈な暑さが続きます。アフガニスタンに夏がやってきました。


「昨夜弟が生まれたの」少女は屈みこんで言いました。


「それはなによりだ」地雷は言いました。


「こんなに小さいのよ」少女は手を使って大きさを示しました。


「恐ろしく小さいな」地雷は驚きました。


「あなたも生まれた当時は小さかったの?」少女は訊ねました。


「わたしは今と変わらない」地雷は答えました。


「これから大きくなるの」少女はさらに訊ねました。


「わたしはこれからも変わらない」地雷は答えました。


「なんで?」少女はいぶかしげに言いました。


「変わらないからだ」地雷は言いました。


「わたしはあなたと会ってからすこし大きくなったよ」少女はうれしそうに言いました。


「わたしは変わらない」地雷は言いました。


「大きくなりたい?」少女は訊ねました。


「考えたこともない」地雷は言いました。


「初めて会った時よりも小さくなったように見えるよ」少女は言いました。


「そんなはずがあるか」地雷はむっとしました。


「ほんとだよ」少女は地雷に手を近づけて計る真似をしました。


「近づくな!」地雷は怒鳴りました。


 少女は笑いながら手を引っ込めました。


「小さくなればいいのにね」少女は言いました。


「なぜだ?」地雷は訊ねました。


「みんながあなたを踏みはずすから」少女は言いました。


「それではわたしの仕事が遂行できない」地雷はむっとしました。


「爆発が小さくなるから」少女はさらに言いました。


「それではわたしの仕事量が少なくなる」地雷はさらにむっとしました。


「ねえ、弟がかわいいの」少女はうれしそうに言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「アフガニスタンを守るたくましい男に育てるよ」少女は言いました。


「わたしの知ったことじゃない」地雷は言いました。


「ソ連兵をやっつけるたくましい男に育てるよ」少女はさらに言いました。


「武器を持たない男に育てろ」地雷ははっきりと言いました。


「ソ連を倒して、あなたのような兵器を生まないようにさせるよ」少女はなおも言いました。


「武器を持たない男に育てろ」地雷ははっきりと言いました。

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