川柳1句短歌1首「夏の夜に見る」

肌掛けの 内に広がる 夢世界


 私はうとうとしながら、自分だけの物語を夢想する。

 心地よいまどろみの中で生まれるいくつもの出会いと別れは、今この時にしかないもの。

 それは目覚めれば雲霞の如く立ち消える。私はおぼろげな記憶の繭から糸を繰り、物語を訥々と紡いでゆく。

 しかし、完成したそれは思い描いたものとは全く異なる彩りを成していた。

 目覚めと共に何か大事なピースを置き忘れたのだろうかと、布団をめくり上げる。露わになったシーツの皺は何も語ってくれない。



夏空に 青きわずらい 深め合い

今夜待つ人 くるり振り向き


 澄み渡った夏空の下、若者たちは互いに青い悩みを募らせる。それは色で例えるなら、空の青より少し深めの……藍色のような色。

 患いを抱えたまま、少年少女はともに夏を過ごす。

 悶々とした物思いはもくもくと立ち昇った入道雲のようで、ふとした折に滂沱たる雨が降り出しそうな危うさを孕んでいた。

 切なる思いを晴らさんと少年は意を決して少女と約束を交わす。少女もまた心に秘した思いを約束に託す。

 いつもと違うぎこちない空気が二人を取り巻く。気恥ずかしいような、照れ臭いような気まずさを暑さのせいにして、二人はその後を過ごした。

 やがて約束の日が訪れる。

 うずうずと熱された心とは対称的に夜は涼やかであった。風が人の喧騒と入り混じっていく。

 浴衣姿の少女が遠くに見えた。

 駆け寄った少年の「紺やな」の一言に、彼女は嬉しそうに紺の浴衣をくるりと翻す。

 浴衣に合わせた瑠璃色の髪飾りが可憐に揺れた。

 視線が重なると、互いの頬が朱に染まった。


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