川柳1句短歌1首「密通」

団地妻 熟れた果実を 身に抱え


 昼下がりの出来事である。ご近所の奥さんがたくさんの果物をおすそ分けに来た。

 彼女がたくさんの果物が入った袋を差し出した瞬間、首元にできたUの字から芳しい実りが目に飛び込んできた。反射的に生唾を飲んでしまう。

 僕はお礼を言いながら腕を差し出したが……。

「あっ」

 目のやり場に困りながら受け取ろうとしたからか、袋を取り落としてしまった。三和土にころころと果物が散乱する。

 慌てて二人で拾い集めるが、奥さんの首元から覗くメロンと屈むことで強調された桃に気を取られる。拾うのはそっちじゃないぞと自分を叱りつける。奥さんはわざとなのか、天然なのかわからないが、素知らぬ顔でせっせと果物を拾い集めている。無防備なのが余計にタチが悪い。

 最後の一つを拾う際、互いの手が触れてしまう。

「あっ、すいません」

「あーいえ、こちらこそ」

 トレンディドラマのようなやりとりにぷっと吹き出してしまう。

「今の、ドラマみたいでしたね」

「ふふっ、そうですね。それもすごいベタな……」

 弛んだ雰囲気に奥さんの気も更に緩む。会話に花が咲くほどに胸元がちらりと見える回数も増えていく。話題も尽きず、いつまでも玄関でというのも難なのでこちらから水を差し向けた。

「いつまでもここでというのはあれなので、良ければこれから別の所でお茶でもしませんか?」

「あ、いけない。もう一軒お配りする所があったわ。すぐ行ってくるのでその後でも良ければ」

 ダメ元で誘ってみたものの、まさか了承されるとは思わなかった。

「ええ、わかりました。ではその後で」

 踵を返す彼女を玄関から見送る。その時、僕は華奢な後ろ姿に見合わぬ色っぽい肢体に背徳的な想像を膨らませていた。



空風を 虚ろな胸に 抱かせて

あえて伝える 君は癒しと


「なぜ君が?」

 初めて事実を目の当たりにした時、私は何も考えられなかった。

 身辺で噂になり始めた妻の不貞……。

「まさか、ありえない。間違いであってほしい」と思いながら依頼した調査の結果はクロであった。相手は近所に住む冴えない大学生だった。

 自分なりに精一杯妻に尽くしてきたつもりだった。何不自由ない生活ができるよう、束縛をせず、お金の管理も任せ、家のことも手伝い、懸命に働いてきた。それなのに何故……?

 自分とその大学生を比べてみても、決して劣っているように思えなかった。それだけに彼女の背信と男の簒奪に対し、憎悪の炎がめらめらと激しく燃え滾った。

 それから私は表向きは今までの「理想の夫」を演じつつ、灰色の心で不貞の証拠をかき集めた。今日も君はこちらが何も知らないと思って、純真を張り付けた笑顔をこちらに向けてくる。それに私は「君は癒し(卑し)だ」と返す。吐き気をこらえながら薬で無理やり勃たせて夜も乗り越えた。

 子どもがいない。それが救いだったし、今後欲しがったとしても避妊は続ける。どんな建前を使ってこようが、徹底的に潰す証拠は揃ってある。あとは起爆のスイッチを押すだけだ。今に見ているが良い。

 

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