五言八句漢柳「與好逑寄一傘」

題:與好逑寄一傘

淑女立雨中 細身過公衆

待人至会遇 開傘損突風

寄肩入衣袂 共歩疎蒼穹

関関如雎鳩 糸糸架長虹


平仄無視 韻:上平一東(中、衆、風、穹、虹)


訓読

題:好きつれあいと一傘に寄る


淑女雨中に立ち、細身は公衆を過ぐ。

人を待ちて会遇に至り、傘を開き突風に損なう。

肩を寄せて衣袂に入り、歩を共にし蒼穹を疎む。

関関として雎鳩の如くなれば、糸糸として長虹を架く。


用語

逑:連れ合い、夫婦をいう。『詩経』周南の関雎の詩より

関関如雎鳩:『詩経』周南の関雎の詩より、「雎鳩」は鳥のミサゴのことをいい、「関関」はその和やかな鳴き声をいう。礼節があり仲睦まじい夫婦の比喩に使われる。

糸糸:雨の細やかな様をいう。主に春雨のことをいうがここではその意を用いない。


解釈

題:良き連れ合いと相合傘をする。

慎ましい女性が雨の中立っており、その細い身で人ごみをくぐり抜けた。

夫と待ち合わせをして無事出会い、傘を開くと突風に傘を壊されてしまった。

(彼の招きで)肩を寄せてその懐に入って相合傘をし、一緒に歩く中、(雨が止めば相合傘ができなくなるので)青空とならないよう祈った。

(その仲睦まじさは)ミサゴの夫婦のようであったので、(天は二人を気遣って雨を完全に止ませず)細雨に収めて虹を架けてやった。


補足

妻が夫の傘を持って最寄駅辺りまで仕事帰りの夫を迎えに行き、無事出会っていざ帰ろうとしたものの、風で自分の傘を失ったため相合傘をして帰るという情景を詠んだ。

「糸糸」は主に春雨のことをいうがその意を用いなかったのは、春だと仕事帰りの時間帯は暗い為、虹は見えないからである。したがってこの詩は仕事帰りの時間帯でも明るくて虹が見える夏の詩となる。

ただ、「関雎」の詩を引いているので夫婦の詩として解釈したものの、この詩に登場する人物は「淑女」と「人」というだけで、はっきりとした関係性が分かっていない。これを交際中の男女がデートの待ち合わせをした際の出来事を詠っていると解釈すれば「糸糸」は春雨のこととそのまま捉えることもできる。またさらに別の解釈をすることも可能かもしれない。

一字一字をどう解釈するかによって意味合いが変わるのが漢詩の面白さでもある。

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