短歌2首「尽きる」
志も破れ 口に糊する それもなお
人知らずして
子よ、今まであなたの言葉を胸に刻み、立身を志してきましたが、ついにどうにも立ち行かなくなりました。
文に身を委ね、大業に心を砕かんとして、来る日も来る日も刻苦勉励してまいりました。しかし、世の人は私の人となりを知ろうとせず、果ては凝り固まった枠組みにはめ込もうとする始末です。
子よ、あなたは仰りました。
「人知らずして慍まず」と。
繰り返しになりますが、私はこの言葉に従って、人の評判に挙がらずともこつこつと己を磨いてきました。それなのにこのあり様はなんでしょう?
その日限りの糧食で口に糊するがやっとの生活で「やがていつかは」と望み続け、幾星霜の時が経ったのでしょう。身はやつれ、心も貧しく、人は私のことを乞食を見るような目で見てきます。ここから這い上がるのはもう無理なのです。
この錆び付いた世の中に君子が現れるには、隠れた君子を掘り起こせるまた別の君子がいなくてはならないのです。ではその初めの君子はどこにいると思いますか。そうです。もういないのです。人々に良識と善意があった時代はとうに終わり、独善と欺瞞がこの世の正義となったのです。人の為に身を立てることはもう愚かなことなのです。
さあ、それでもあなたはこんな時代遅れな妄言を吐くのですか。あなたの心が失われて言葉だけが紙に羅列されるようになってから、果てしない時が経ちました。あなたは今、何を考えているのですか。私めにはもう何もわかりません。
地に伏せる 血だまりに咲く 黒い花
摘みて捧げる
地にうずくまる骸。流れる血を糧に黒い花は咲く。
花は命の脈拍。摘めば容易く枯れ落ちる。
花びらは命の残滓。尽きる魂を礎に命脈を天地に捧ぐ。
天は死を祝福し、地は生を救済する。
そうして命は尽きる……尽きる……。
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