短歌連作「合唱コンクール」
合唱コン 指揮する君の 気はそぞろ
うつむく君は 何故か赤く
校内行事である合唱コンクールの練習が続く放課後のことだった。当日を目前に控え、練習にも自ずと力が入る。
ただ、今まで何事もなく堂々と指揮をしていた君の様子が妙に感じた。頑なに男声パートの方に顔を向けなくなったし、自然体だった腕の振りが固くなったようにも見えた。
周りは特に気になっていないようだ。僕の気が立っているだけで勘違いなのかもしれない。
元々は教室内でもほとんど関わり合いがなかった。この行事の委員になるまで、お互いに言葉を交わすことさえなかった。君が自ら指揮と兼ねて立候補したのに対し、僕は他の男子から半強制で推された。そんな甲斐性なしを君は頼もしく引っ張ってくれた。君がいなければ、クラスをまとめることなどできなかっただろう。
でもそんな君が今、何かに囚われているような気がした。上の空というか、気がそぞろというか、口では言えない何かが君の周りに漂っている。この前の話し合いの時に、何か気付かぬ内に悪いことをしたのかもしれない。
練習が終わったら声をかけてみようかと思ったけど、当の君はそれを許さないようにそそくさと女子の輪に入っていってしまった。ショートヘアから覗く横顔は練習の熱のせいなのか、赤くなっていた。
彼の眼が 私に向くと ふと気付き
身も心も 熱にほだされ
合唱コンクールの日が近付いてきた。ここまでクラスをまとめる為に彼と共に頑張ってきた。いじりのような流れで委員にされてしまって、少し可哀そうだと思ったけど、彼の人柄もあってクラスは一丸になれた。彼がいなければ、クラスをまとめることなんてできなかっただろう。
今まで関わりがなくて何とも思っていなかった。でも触れ合う回数が重なる内に、授業中に自然と彼の背に視線が向いていたり、ちょっとした会話一つにさえ心が躍っていたり……。気付けばいつも彼のことを気にしている自分がいた。
合唱している間は彼の眼が私に釘付けだと意識し始めてからはひどいものだった。男声パートの方に顔を向けられなくなったし、彼に見られていると思うと胸が高鳴るし、緊張で何かと体が火照るしで、とにかく地に足がつかない。
早くコンクールが終わらないだろうか。いや、やっぱりいつまでも終わってほしくないな。ときめきとやきもきのせめぎ合いに、私はただただうろたえるしかなかった。
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