短歌2首「苦い」

顔埋め 背にまわりし 濡れ袖の

乾きを待てと 吾に請う君


 僕の胸に顔を埋め、君は嗚咽する。

 ――濡れた袖が乾くまで、どうかこのままで居させて。

 僕は何も言えず、その小さな体を抱きしめることしかできなかった。



カフェ帰り 苦み含みの キスの味

共に帰るも 笑みはこわばり


「苦いね」

 最後に交わした口づけはコーヒーの味がした。

「駅まで送るよ」という君の申し出を振り切るべきだったのかな。

 ――恋人から友に帰ろう。

 そう決めたけど、未練がましい自分に嫌気が差す。

 お互い何も言えぬまま駅へ……。

 私はとりあえず「ありがとう」とだけ言っておく。

 返事した君の笑顔は強張っている。私の笑顔も強張っている。

 たぶん、私達はもう友にも戻れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る