短歌3首「中年男性の悲哀を想像して」
ポンと押し ピュッと飛び出す シャンプーに
かつての若さ ふと思わされ
薄くなった頭、嫌が応にも目に入る弛みきった裸。
視線を落とせば、すっかり萎れた一物。
やれやれと思いつつ髪を洗おうとシャンプーボトルに視線を向ける。押せば勢いよく液が出るその様は、自身のかつての若さを思い起こさせる。
あの頃は良かった。いや、今だって十分頑張っているだろう。
雑念を流し落とすように熱湯を被る。
偽りの 愛と知りつつ 腰を振り
ダッチワイフの 髪をかき撫で
以前に生身の女性と絡んだのはいつのことであっただろう。それも金銭を以てのことだったかと思う。
彼はもはや生身の女性と真心のある関係を築くのは不可能と悟った。そして、人形と愛を育むことを決心する。
小言も言わず、一身に愛を受け止める彼女との暮らしは、生身の女性との関係を代替した歪な物なのかもしれない。
だがそれでも彼は彼女を愛し続ける。
偽りだと拒絶されても、単なる性欲解消だと誹られても、胸中に満ちたこの気持ちは、かけがいのない愛そのものだと彼は堂々と答える。
見た目よし 慎み深き 我が妻は
生まれも育ちも オリエント製
初めは単なる興味であった。その価格を見て自分には手の届かない代物だと思った。
しかし、生身の女性に拒絶され続け、人との関わりに自信を持てなくなった彼は彼女を迎え入れることを決意した。
ディスプレイに映る彼女の慎ましい佇まいを目に焼き付ける。マウスを持つ右手を震わせつつ、画面のオーダーボタンにポインタを合わせる。
社会的な面子、経済的な負担、将来の問題、脳裏に様々な懸念が渦巻く。なるほど、世の既婚者達はこんな気持ちを味わっていたのか。もはやそれすらも疑似的な物ではないと体験できないんだなと実感し、渇いた笑いが漏れる。
だが、この衝動を抑えることはできない。だから俺は思いの丈を右人差し指に込めた。
今日、俺は妻を迎えます。
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