04:悪役令嬢は味方ができる
「はいはぁい、その茶番そろそろおしまいにしましょうかぁ」
間延びした台詞に、重い空気が一掃される。
新たに現れた第三者を見て、エステルがぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「ライオ」
彼は本来バレンティーヌ家の遠縁にあたる家の子で、幼少時に訳あってゲーム通りバレンティーヌ公爵家の養子になった。現在は魔法に関する研究において学生の身ながらも結果を出し続けている優秀な弟だ。
彼も攻略対象の一人だが、こちらも決意通りにエステルが幼少時にしっかりトラウマをクラッシュしておいたおかげか、メルリには見向きもせず魔法の研究に夢中である。
放課後はそそくさと研究室に閉じこもってしまうライオが現れたことに少しばかり驚いた様子だったが、これ幸いとクラスメイトのアベルがライオにも声をかけた。
「おい、ライオ。お前の姉だろう。メルリに謝るよう言ってくれ」
他に目もくれず真っ直ぐエステルに向かって歩いていたライオは、初めて彼を見る。不思議そうな表情だった。
「姉さんが謝る? してないことを謝る必要なんかありませんよねぇ?」
「あ、あの、ライオ!」
「なんであんたに呼び捨てにされなきゃいけないんですかぁ。犯罪者は引っ込んでくださいよぉ」
ライオの容赦ない言葉に傷ついたようにメルリが俯き、他からはばれないように一瞬だけぎろりとエステルを睨みつけた。なにあれこわい。
「おいライオっ! お前、なにを言ってるかわかっているのか!?」
「犯罪者なんてっ……わたしはなにもしていません! 信じてください!」
ライオの一言にアベルは怒鳴り、メルリは声を震わせる。ライオはライオで意にも止めていない顔でそれらを黙殺するしで、完全に収拾がつかなくなりそうになったところに静かな一言が落ちた。
「――そろそろ、喋ってもいいかな?」
有無を言わさない重みを感じ、誰もが口を閉じる。
ジェラルドはメルリを見下ろし、笑みを浮かべた。
「ライオがごめんね、メルリ嬢」
「ジェラルド殿下……!」
「でも事実だよね」
「……え…………?」
期待に輝いた瞳が、信じられないとばかりに大きく見開かれた。言葉はなにも出ない。
ジェラルドは先程まで掴まれていた部分をさっと払い、満面の笑みでエステルの隣へとやってきた。ライオもその反対隣へ立った。
「殿下!? なにをおっしゃっているんですか!?」
「なにを言っているはこちらが言いたいよ。まさか魅了魔法にかかるなんて」
「は? 魅了、魔法……!?」
「こぉんな女に隙見せるなんてダメですねぇ。とりあえず暫く接触しなければ自然と解けると思うんで、さっさと拘束して引き渡しましょぉ」
「ああ、今後のことは家でじっくり話し合うといいよ」
ジェラルドの言葉を引き金に、ライオから遅れてやってきた衛兵たちが青ざめながらも暴れるクラリオンや他の者たちを拘束し、この場から引きずっていく。彼らは魅了魔法にかかった被害者ではあるものの、各々婚約者をないがしろにしたり成績を落としたりとその評判は地に落ちる勢いだ。その始末については各家に任せることにした。
同じく拘束されたメルリが唖然とした表情でそれを見送り、なんで、と呟く。
「それはどうして魅了魔法を使っていることがばれたのか、っていうことかな?」
「むしろなんでばれないと思ってたんですかねぇ。というか殿下、姉さんにくっつきすぎですよぉ。まだ嫁入り前なんで控えてもらえますかぁ」
「ライオはそろそろ姉離れするべきじゃない?」
エステルの腰を抱くジェラルドにライオが不服を申すが、知らん顔でますます密着しようとしてくる。
エステルにとっては三人揃うといつもこんな感じなのでまたか、と思うだけだがメルリにとっては違った。
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