第18話 転移と白い犬

路地に逃げ込んだタカシはシャインを抱えたまま叫ぶ。

 

 「転移!おっちゃんの家へ!」

 

 タカシがそう叫ぶと沢山の小さな魔法陣が幾重にも重なりひしめき合い一斉にキラキラと光り始め2人を包み込んだ。

 次にシャインの目に飛び込んできたのは1面の草原にポツンと佇む1軒のレンガ造りの家であった。

 

 シャインがここはどこかと聞くとタカシが答える。

 

 「ここは王都から三日くらい南に行ったジュノラス領地の端っこの知り合いの家や。転移で逃げるにしても俺はここまでが精一杯や。こっからは馬で行くで。」

 

 そう言ってタカシは目の前に佇む1軒のレンガ造りの建物に入っていく。

 

 「お~い!おっちゃんおるか!」

 

 タカシが敷地に入るなり家に向かって叫んだ。すると中からオーバーオールのような物を着た小さなお爺さんが出てきた。シャインは慌ててフードを被りタカシの陰に隠れた。

 

 「おぉ、タカシか!?久しぶりだな!今日はどうしたんだ!?」

 

 「あ~、悪いねんけど、馬貸してくれへん?ローべロス王国の国境まで行きたいねん。」

 

 タカシのその問いにお爺さんは頭をかきながら言う。

 

 「ローべロスの国境までか………行くだけで半月ぐらいかかるだろう。……今、馬が1頭しかおらんくてな……すまんな。無理だ。」

 

 「やっぱりあかんか~。…………じゃあ、ジュノラス領都までは?」

 

 「う~ん……領都までなら1日で帰って来れるか……よし!良いだろう!」

 

 タカシの問いに少し悩んだお爺さんであったが了承してくれた。

 

 「まじで!ほんまありがとう!あと……これ少ないけど貰っといてや!」

 

 タカシはそう言って持っていたバックから取り出した小さな小包を手渡すがお爺さんは受け取ろうとせず馬を連れに行った。

 

 「そんなもの別にいらん。タカシには色々世話になったからな。それにその格好からして慌てて出てきたんだろう……それにローべロスまで行くなら出来るだけ節約しておけ。」

 

 「……そうか。ありがとうな。」

 

 タカシはそう言いながら小包をカバンに直した。

 

 「じゃあ、行ってくるわ!ほら、行くで!」

 

 そう言ってタカシはお爺さんの連れてきた馬にひらりと乗り、ずっとタカシの陰に隠れていたシャインの手を取り、引き上げ自分の前に座らせた。

 その時に被っていたフードがはらりと落ち黒色の髪が露見した。それを見たお爺さんが言う。

 

 「ほう、なかなか珍しい髪色をしているな。」

 

 シャインは慌ててフードを深く被り直した。

 

 「あちゃ~……おっちゃん黙っといてくれるか?この子ちょっと色々訳ありやねん……。」

 

 「……分かってるよ。衛兵が来ても何も言わない。」

 

 微笑を浮かべながらお爺さんが言った。それを見たシャインは小さな声で呟いた。

 

 「……ありがとう。」

 

 シャインがそう言うとお爺さんは大きく笑った。

 

 「よし!じゃあ行くで!」

 

 タカシはそう言って馬の手綱を引いた。馬は大きくひと鳴きし走り始めた。

 

 草原を駆ける馬は徐々にスピードを上げ2時間程走るとタカシは徐々に馬のスピードを落とし足を止めさせた。

 

 「1回休憩しよか。馬も休ましたらなあかんしな。」

 

 タカシはそう言いながらシャインを下ろした。タカシは馬を近くに流れる小川に連れて行って水を飲ませ始めた。

 

 「ちょっと周りを見てきていいか?」

 

 「ええけど、あんまり遠いとこまで行きなや~。」

 

 そう言ってタカシはまた上馬に水を飲ませ始めた。

 

 シャインは小川の上流の方に歩いて行った。上流の方には小さな池の様になっていてシャインは靴を脱いで水に入った。

 肌を刺すような冷たい水が気持ちよくシャインはピチャピチャと水辺を歩き遊び始めた。

 

 しばらく遊んだシャインは水から上がりタオルを持っていなかった事に気づきそのまま裸足でぺたぺた地面を歩き始めた。

 

 しばらく歩くと足についていた水滴が乾いた地面に吸われていった。シャインは地面に落ちていた大きな石に腰掛け足についた土を払い靴を履いた。

 靴を履いたシャインは帰ろうと立ち上がると後ろの茂みがガサゴソと動き始めた。

 シャインは警戒し持ってきていたロングソードを抜き構えた。

 

 徐々に近づいてくる何かが茂みの揺れを徐々に大きくしていく。

 シャインは一層緊張を高めロングソードを構え直した。

 

そして勢いよく飛び出して来たのは………1匹の白い犬であった。


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