第6話


『手に持ってるものを早く捨てたまえ』

俺はわざと大声を出した。

彼女が持っている簡易火炎放射器の炎が届く距離を計算に入れ、十分に間合いを保ったまま、拳銃をホルスターから抜いた。

それからもう片方の手を懐に入れて、探偵免許とバッジを示した。

『ヘッドバンドの灯りで分かるだろう?この通り、俺は私立探偵の乾というもんだ。探偵だってこの通り、ライセンスがあれば拳銃を持っていいことになっている。今まで女性や子供を撃ったことは一度もないが、君の持ってる武器が武器だからな。そっちが火を向けてきたら容赦なく撃つ。』そうして俺はもう片方に付けた小型カメラを指さし、

『こいつはNASAが開発した特殊なレンズを使ってるやつだ。マッチの火程度でもはっきり相手を捉えられる代物だぜ。これで君のやったことを一部始終全部撮ってる。』

 すると奈津美は驚くほど素直に、俺の言葉に従った。

 ゆっくりと近づき、俺は彼女の足元から、小型の火炎放射器を拾い上げた。

 恐らくベレッタか何かのモデルガンを改造して作ったんだろう。

 銃身の下の部分にボンベが着けられている。引き金を引くと、そこから何らかの燃料が噴き出す。それを先端に付けた発火装置で火をつけるという仕組みになっているようだ。

『・・・・で、どうするの?私を警察に突き出す?でも残念ね。私はまだ中学校の二年生よ。いくら警察でも起訴は出来ないでしょう。』

子供らしい、柔らかい声だが、どこかに棘が含まれている。

『そんなことは俺にだって分かっている。ただ、俺は依頼された仕事を果たすだけだ』

『ねぇ、幾ら欲しいの?』

とても子供の言うセリフではない。

『言い訳は別のところで言いたまえ。後はどうなろうと、とりあえず警察を呼ぶ』

 俺は冷淡に答えた。

 本当ならば、二・三発殴ってやりたいところだが、俺だってガキを殴るほど落ちぶれちゃいない。

所轄の警察に電話をかけ、すぐに警邏の警察官に来てもらった。

俺が事情を話し、火炎放射器を渡すと、流石に彼らも放っておくことはできなかったんだろう。

パトカーを呼んで、

『補導』と相成った。

俺も念のためということで同行を促され、事情を聞かれたものの、さすがにこっちも探偵である。

『仕事上知りえた秘密は話せない』で押し通すと、向こうも渋々ながら納得はしたようだった。


その後、彼女がどうなったか、俺は知らない。

ただ、例の三文トップ屋や、弁護士の平賀君の話によれば、親が被害者との示談に応じ、それ相応の金を弁償したようだ。

俺の依頼者も、それだけじゃ納得は行かないかもしれないが、何もないよりはましだったのではなかろうか。

事務所のラジオを点ける。

『・・・・では、次に教育評論家の宮田澄子さんにお話を頂きましょう。宮田さんは日頃「叱らない教育」を推奨しておられ・・・・』

俺は気分が悪くなり、スイッチを切った。

さあ、今日はもう店じまいだ。

こんな日は酒でも呑んで寝ちまうに限る。







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赤い小悪魔 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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