第5話
俺は街路灯の下にたたずんで、斜め向かいにある宮田家の門をじっと見ていた。
時計を確認する。
(そろそろだな)
俺は思った。
腕時計を確認してみる。
6時になった。
と、玄関のドアが開き、奈津美が出てくる。
クリーム色の丈の長いカーディガンに、ブルーのワンピースを着ている。
髪はツインテールというのだろう。両側に分けて三つ編みにしている。
どこからどう見たって、当たり前の女子中学生だ。
両親はまだ帰宅していないというのに、彼女がこれから行くであろう場所。
表向きは『塾』ということになるんだろうが、その『表向き』に反した行動をとるであろうことは、馬さんからの情報や、俺の推理した彼女の犯罪周期から、大体見当はついた。
彼女は、通常よりやけに大きなスポーツバッグを持って、駅への道を急いだ。
俺も彼女から数メートルの間隔を置いて尾行を開始した。
そのまま大通りに出て、たっぷり30分は歩き、駅についた。
駅についても、そのまま改札を潜ることなしに、彼女はトイレへと入っていった。
トイレは男女ともひとつしかないし、改札の一番近くだ。
俺はベンチに腰掛け、出てくるのを待った。
間もなくして出てきた彼女は、さっきとすっかり様子が変わっていた。
修理工などが着ているような、くすんだ灰色のつなぎ服に、短い髪のウイッグ、それに眼鏡は銀縁から太い黒縁になっていた。
そのまま、何食わぬ顔で切符を買い、電車に乗った。
俺も遅れまいと後に続く。
彼女の行く塾は、ここから二駅は先になる筈だ。
ところが、彼女は間もなく、次の駅につくと、そこで降りた。
俺もすぐに降りる。
その駅はそれでなくても乗降客がそれほど多くはない。
俺は相変わらず距離を取って、尾行を続けた。
彼女はそのまま、大通りを抜けて路地に入った。
そこから先には都会には珍しい、鬱蒼とした森がある。このあたりにひとつだけある八幡神社だ。
神社とはいっても、普段は誰もいない。
それでも彼女は辺りを見回し、人影のないことを確認すると、しゃがみ込んで肩から下げていたバッグを下ろし、中を開けて何かを取り出した。
ピストルの形をした装置の下に、何やらボンベが取り付けてある。
彼女はポケットに手を突っ込むと、使い捨てのライターを出し、その妙な装置の引き金を引き、先端に火をつけた。
引き金をマックスに押し込むと、
ボワッ
という音と共に、青白い炎が噴き出す。
その炎に照らされて、彼女の表情が明らかに変っていた。
『普通の女子中学生』ではない。
そこにいたのは・・・・明らかに一人の『放火魔』そのものだった。
『ストップ!そこまでだ!』
俺はわざと大きな声を出す。
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