第3話

 宮田奈津美の通っている学校は、都内でも有数のお嬢様学校。

 小学校から大学まで何の心配もなく通えるという、まあ私学にはありがちのハイソな学校というわけだ。

 場所は白金、通っているのも、いわゆる『セレブ』と言われる生徒ばかりだった。

 正面切って学校に訪ねていったところで、とぼけられるか拒否されるかのいずれかだろう。

 俺は雑誌の記者のふりをして、彼女の住んでいる田園調布の豪邸のご近所やら何やらを調べて回った。

 回りくどいやり方だが、これだってそれなりに収穫はあった。

 奈津美という少女は、性格も温厚、学校の成績も優秀。特に理科系に優れていて、将来は科学者になりたいなどと話しているという。

 どこへ行っても、彼女が『連続放火犯だった』なんて知っている人間は誰もいなかった。

そりゃそうだろう。

見た目はその昔『トイレに行く姿を想像できない』と言われた、某アイドル女優そっくりなんだからな。

遠目に何度観察しても、俺だって彼女が『そんな大それた犯罪をした』とはとてもじゃないが思えない。

俺は踵を返し、彼女の犯行現場を地道に辿ってみることにした。

一軒目は印刷工場の隣の空き地、伸び放題になっていた雑草に火がつけられたのだ。

 この時は草が焼けただけで、特に被害が出たわけじゃない。

 二件目は、青果店のガレージ。

 年寄夫婦が二人きりで営んでいる店で、夫が毎日一回、軽トラックで野菜の移動販売に出かけるのだが、その際、棟続きのガレージを開けたまま出ていく。

 そこを狙われたのだろう。

 二度に渡って火を付けられ、一度は危うく住居の方まで類焼する程であったという。

 三件目は民家の車庫で、社会人の息子が、たまたま休みの時に、近くのレンタルDVD店に出かけての帰り、この時もガレージのシャッターが開けっ放しで、置いてあった段ボールに火をつけられた。

被害は置いてあった母親の自転車が燃えただけ。

そして四件目が依頼者のバイク、

五件目がコンビニの裏というわけだ。

いずれもけが人などは出ていない。

モノの本によれば、放火犯というのは得てして犯罪を犯そうという気持ちからではなく、一種の快楽犯罪に近い性質のものが多いという。

 要するに、火をつけることそのものに何らかの快感を感じている。

 こうなるともう犯罪者というより、病気に近い。

 だとすれば猶更、プロの手、つまりは医師の手に委ねて適切な治療を施す必要があるのに、彼女はそれすらもしていない。

(荒療治が必要かもな・・・・・)

 俺は腹の中で何度も呟いていた。


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