第2話

 しかし、相手が未成年となると、それはそれで厄介だった。

 何しろ、

『少年法』というやつがある。

 これがある限り、16歳以上でないと刑事罰の対象にはならない。

 当然、警察に出かけてゆき、あれやこれやつついてみたところで、彼らは言を左右にして何も教えてはくれなかった。

 次は新聞社だ。

 しかしあそこも警察以上に『人権』とやらに対して敏感である。

 俺は図書館に出かけ、発行されていた新聞のバックナンバーを全部調べてみたものの、都内版にわずかに『連続放火事件があった』という記事を見かけただけで、それ以上は詳しく掲載されていない。

 頼みの綱は、三流ゴシップ雑誌だ。

 俺の古くからのなじみの一人に、人が目を留めないような猟奇事件ばかりを好んで調べ、それを本にして出している男がいる。

 もちろん、そうした雑誌であるから、誇張も多いようだが、事件そのものについては、

『ウソは書かない』というのが売りらしい。


『ああ、その話な・・・・知ってるよ。中学一年生だろ?』

奴のところを尋ね、呑みにいかないかと誘い、酒場に引っ張り込んでこの件について切り出すと、いとも簡単にしゃべってくれた。

『恐ろしいもんさ、最初に事件を起こしたのはまだ小学校の六年生だったかな?それも連続で五件だぜ?』

『五件?』

『ああ、二件は日曜の昼間、残りの三件は平日の夜だった。』

『でも、捕まったんだろ?』

『もちろんさ。五件目の犯行の後だったかな?大通りのマンションの一階にあるコンビニの裏に、段ボールの箱が積んであったんだが、そこから火の手が上がるところを、すぐ近くの美容室の女性店主がたまたま見つけて警察に届け出たというわけさ』

『しかし、捕まった後、どうなったんだ?小学生というのは分かるが、新聞種にもならなかったってのは・・・・』

『親だよ、親』

 苦々しそうな顔で奴はいった。

 何でも父親の方は某市民派の都議会議員、母親はというと、児童心理の大家で、昨今有名な『叱らないで子供を育てる』というので、テレビやマスコミにひっぱりだこの人物だそうだ。

『宮田啓二と、宮田澄子・・・・名前くらいは聞いたことあるだろ?』

 なるほど、確かに有名人だ。

『この二人の圧力があっちゃあ、そりゃ警察に圧力をかけるのは造作もないし、マスコミだって売りもんに傷がつくのは何としても避けたい。そんなとこさ』

『で、娘は?』俺は奴のために、もう一杯ウィスキーを頼んでやった。

『名前は奈津美ってんだが・・・・どうにもならねぇよ。そのまま小学校を卒業して、そのまま中学・・・・何でもエスカレーター式の私学の名門女子校らしいがな・・・・そこへ入っちまった』

『何の処分も受けずにか?』

『これまた親の顔だよ。新聞にも載らなかったんだぜ?名前も顔も伏せられたままだ。これじゃどっからどう転んでも調べようがねえだろ?』

 俺は、暗い気持ちになった。

 仕事には情を挟まずにやってきたつもりだったが、どうもイガイガしたものがこみあげてきてしょうがなかった。



 

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