第54話 それぞれの「恋情」
NTK教育番組 ドラマ『青春・熟語』
・第10話 「恋情」
【「恋情」…異性に対する恋い慕う気持ち】
サッカー場には声援と拍手が響いていた。
「頑張れ萩野ーっ!」
「萩野くーん!!」
ボールの弾む音、チームメイトの掛け声、コートを走る音が耳をいっぱいにした。得点版には、「1-2」と記されている。萩野は汗をかきながらゴールまで走り抜けた。足を踏み込み、勢いよくボールを蹴るが、ボールはキーパーに見事に阻まれ、ゴールはならなかった。
ホイッスルが鳴った瞬間、萩野のチームは動きを止めうな垂れた。対して、相手チームは両手を上げて喜んでいる。声援を送っていた人たちからは、拍手が上がった。その中に、帽子をかぶって応援していた夢坂がいた。
顧問の先生の前に集まったチームメイトの中には、泣いている人もいる。萩野の握る拳は震えていた。
「これで、3年生は引退だ。よく頑張った!お前たちの3年間の努力を、私は忘れない!在校生たちには、今日の悔しさを忘れないでほしい。明日からまた厳しい練習が始まるからな。今日はゆっくり休むこと。以上!」
「「ありがとうございましたっ!」」
その試合が終わると、萩野は帰って行く先輩たちに頭を下げた。「すみませんでした」という言葉に、先輩たちは「ありがとう!」「頑張れよ!」と答え、笑って帰って行った。萩野は悔しくて申し訳なくて、誰もいなくなった後でも、その場からしばらく動けなかった。
「ごめん皆、先に帰ってて。私、忘れ物しちゃった」
サッカー部の応援に来ていた女子たちと一緒にいた夢坂は、とっさに嘘をついてグラウンドに戻った。すると、グラウンドからはボールを蹴る音がしていた。ボールを蹴っていたのは、萩野だった。
「は、萩野!」
「……夢坂、お前帰ったんじゃあ」
「きっと、萩野がいると思って戻って来たの!やっぱり一人で練習してた」
萩野は泥だらけのユニフォームのまま、蹴り続けたボールを拾った。夢坂も一緒に拾い始め、最後の1個を萩野に手渡した。
「今日は、応援ありがとな。でもダセエな。負けちまった……」
「ううん。萩野、すっごい頑張ってたじゃん!私、ずっと見てたもん!萩野が一番カッコよかった!」
萩野は、夢坂の率直な言葉にドキッとした。夢坂は頬を染め、一瞬視線を反らし、前髪を整えた。
「一生懸命やったんだから、ダサいわけないよ!それにね、別に私、萩野が勝つところ見に来たんじゃないよ。頑張る萩野を応援したくて来たんだよ!だから、私の方こそありがとう!ドキドキしたし、楽しかった!萩野は……、楽しかった?」
萩野はしばらく黙っていた。負けたことが悔しくてたまらない。先輩たちの力に十分なれなかったことが不甲斐ない。そんな自分が、一人で「楽しかった」なんて言える立場じゃないと思った。
「……きっと、楽しかったでしょ?」
「え?」
「だって、走ってる時の萩野、楽しそうだった!」
「……うん」
「なら良かった」
夢坂が満面の笑みで答えると、萩野はその笑顔に釘付けになった。ドキドキする胸の高鳴りが何なのかは、すぐわかった。
****
「ええ!?知らないの!?『青春・熟語』!」
「何のことよ。青春?熟語?」
「NTKのドラマなの!萩野役で3組の小山内君が出てるんだよ!?」
「こないだの回見た?ちょーキュンキュンしちゃった!」
「”恋情”の回でしょお?私も見た!萩野ちょーかっけーの!」
「夢坂役のモデルのユリアちゃんも可愛いよね!」
「待って言わないで!私まだ見てないんだから!」
6月初めの空の下、中学校のグランドで体育祭が行われていた。大沢は少し離れた席で、隣のクラスの女子たちがワイワイと話している声に驚いた。うわあ、唯我の話してるっ!っていうか、私ももちろん見てる。めっちゃ話したい!
大沢がもぞもぞしていると、一緒にいた泉美がニヤニヤした。
「『青春・熟語』、とうとう認知され始めましたかな?良かったじゃん、成美」
「何で私に良かったなんて言うの?」
「だって、半分保護者で、半分彼女じゃん。あんた」
「何それ!絶対違うから!」
「おお、顔真っ赤!」
その時、ピストルの音が鳴った。種目は2年生男子100m走だ。
「あ、小山内君もうすぐじゃん!成美、前行こう前!」
「え、ちょっと!」
泉美は大沢の手を取り強引に前列に移動した。最前列はキャーキャー声を上げる女子たちで大盛り上がりだった。
「キャー!唯我くーん!」
「頑張ってー!!」
そこら中からハートが飛び、それが泉美と大沢の頭の上ではねて落ちる。二人はギャルたちの甲高い声を聞いただけで立っている力を失った。地面にしゃがみ込むと、泉美は落ちていたハートを拾ってポイっと捨てるような動作をした。
男子の並ぶ列には、女子たちの声がワーッと聞こえてきていた。康平はニヤニヤしながら女子たちを眺めていた。
「大盛り上がりじゃん!小山内の名前、めっちゃ聞こえる」
「からかうな。やめろ……」
「手でも振ってやれば?」
「誰にだよ」
「お前ってモテるくせに、全然恋愛に興味なさげだよな。チョコはほしいし、本当はムッツリスケベのくせに」
「康平うるさい。しつこい!」
「あはは!そうやって集中力を切らせろ!そして俺に負けろ!」
「負けるかよ!」
そうしていよいよ俺はスタートラインに立った。隣の康平がニヤニヤしてくるのがウザい。絶対負かしてやる!
ピストルの音がパンッと響くと、横並びの男6人が一斉にダッシュした。康平は力んで途中で転び、隣のレーンの奴が巻き添えを食った。俺はさっさと陸上部の奴に抜かされ、2位でゴールした。
康平はゴールもできず、ギャーギャー騒ぎながらそのまま保健室へと連れて行かれた。俺は先に席に戻った。グラウンドには砂煙が舞い、競技を応援する音で溢れている。見上げると、盛り上がったグラウンドの様子とは裏腹に、空は徐々に灰色の雲が漂い始めていた。日差しが和らいだのは嬉しいが、雨に降られるのは嫌だ。
「唯我、おかえり。康平君、大丈夫そう?」
「すりむいてたよ。まあすぐ治るだろ。あれ、泉美は?」
「保健委員だから、康平君のところに行ったよ」
「あいつずっと俺のせいだってうるさかった」
大沢はふふっと笑い、俺はため息をつき俯いた。椅子の背もたれにかけていたタオルを取った時、オーディションで受けた傷がピリッと痛くなった。いつの間にか、傷を覆っている大きな絆創膏が少し血で滲んでいる。思わず「チッ」と舌打ちをした。
最近、ちょっとしたことでもイライラすることがある。あんなガキみたいに声を立てられただけでも、俺はため息が出てしまう。きっと瀬良のせいだ。全部あいつのせいだ!もう一度ため息をこぼすと、大沢は体をかがめて俺の顔を覗き込んできた。
「何か、最近元気ないよね。突然イライラしてたりしてるでしょ」
「え?」
「何で?何かあったの?」
さすが大沢、と俺は思った。昔から人の様子をよく見てくれるところは何も変わらない。
「……大沢は」
「うん」
「好きな相手が、自分じゃない人とデートしてたり、付き合ったりしたら、どうする?」
「……」
「た、例えばって話……」
この時俺は俯いていたから気づけなかったが、大沢は心底呆れた顔をしていた。何それ、私に聞くこと?大沢は深くため息をついてから、「ええっと……」と話してくれた。
「私はさ、好きな人が元気でいてくれたり、楽しそうにしてくれていたら、それが一番だと思うの。だから、それが私じゃなくたって、誰かとデートしてたり、恋人同士になったって、その人が幸せそうにしてくれてたら、私はそれで十分なの」
「……大沢らしいな」
俺はため息混じりに言った。すると大沢はムッとして、俺の右手を掴んで上げた。
「だけどね、こういう怪我を見るのは嫌。元気ないのも嫌。だから、早く元気出してよね!」
きょとんとした俺の顔を見ると、大沢は「あ……」と呟き、顔を真っ赤にして手を離した。
「ごめん、突然」
「いや……」
俺は首を傾げた。今の話の流れだと、まるで大沢の好きな人が俺みたいじゃん。まあ、言い間違いか、例えとか……。うん、例えだろうな。
「うん。元気は必要だよな。底辺でもジェニーズJrだし」
「て、底辺じゃないよ、唯我は。それに、いつかきっと皆の知ってる小山内唯我になるんだよ。絶対そう!」
大沢の正直で真面目な返事が嬉しかった。「サンキュ」と返すと、大沢は照れくさそうに笑った。
「だけど、まあそうだよな。その人が幸せそうにしてくれてたら、笑ってくれてるなら、十分だよな……」
「私はって話だからね。強引に納得しなくてもいいじゃない?」
「うん……」
空返事の俺を見ると、大沢はムッとした気持ちを膨らませたが飲み込んだ。大沢には、俺が何が原因で元気がないのか、イライラしていたのか、だいたい理解できた。
その時、席を離れていた康平と泉美が戻って来た。
「おいおい、何の話してたんだよ」
「唯我のお仕事の話」
「ふうん」と2人が席に腰を降ろすと、泉美がじっと俺を見つめた。
「小山内君ってさ、どうしてジェニーズやってるの?」
「え」
「確かに、俺も聞いたことねえわ。何で?」
康平と泉美、大沢が俺をじっと見つめて答えを待っていた。俺がジェニーズをやっている理由は、経済難を抱えていた施設を支えるためで、千鶴さんに憧れたせいで、何より、優里子を笑顔にしたいからだ。
優里子の顔を思い出すと、未だに瀬良のほくそ笑む顔が浮かぶ。すると胸がムカムカしてきた。俺はぶっきらぼうに答えた。
「自分のため」
「自分のため、ねえ」
「何か、理由を聞いても意外だよなあ」
康平と泉美は「ねえ」と言い合い、話題はさっさと体育祭の話に移った。大沢は俺の様子が少し変わったことで、半分嘘だと思った。膝についた頬杖の上でふうっと息を吐いた。ふと見上げた空には、灰色の雲が少しずつ増えているようだった。
「何か、もう雨降りそうだね」
「……だな」
****
午後の競技がいくつか終わる頃、いよいよグランドが暗くなった。観客席の生徒たちは、皆して一面灰色と化した空を見上げた。
『最後の競技は、学年合同クラス対抗リレーです!選手の皆さんの入場です!!』
「あ、成美!小山内君だ!うちのクラスあそこだよ!」
「ここまできたからには、途中で雨降らないでね。雲、耐えてえっ!」
大沢は両手を組んで天に願った。泉美は「愛だねえ」と呟いた。しかし、願いは届かず、ピストルの音と同時にバケツをひっくり返したように雨が降ってきた。体育祭はそこで終了し、生徒たちは全員ずぶ濡れになって教室に引き返すこととなった。
「ああ、びしょびしょだよ。最悪」
「でも、体育祭は延期しないってね。リレー以外の集計結果で、紅白優勝が決まるんでしょ?」
「らしいぜ。小山内、早く教室行こうぜ。寒いわ」
「ああ」
昇降口は濡れた靴下を脱いで上履きに履き替える奴らでごった返していた。俺も自分の上履きを取り、移動しようとした。その時、見知らぬ女子から声をかけられた。
「あの、唯我君。ちょっとお話いいかな」
「はい……?」
その様子を、大沢は階段を上がる時に見てしまった。思わず立ち止まった。
「ちょっと、早く行こうよ成美!」
「あ、うん!」
何だろう。すっごい気になる。……もしかして、もしかして……。
大沢は後ろ髪を引かれながらも、大沢は泉美と階段を上がった。教室では、制服や部活の服に着替えた生徒たちが自由時間を過ごしていた。窓にはバラバラと雨粒が打ち付ける音がしている。流れる水の影が大沢たちの席に落ち、あたかも教室が濡れているような景色になっていた。
「にしても、小山内遅えなあ」
「そうだね。どうしたんだろう。ね、成美」
「え?……うん」
「あー、早く放送流れないかなあ!紅組優勝!紅組優勝!」
「点数の集計してるんだから、もう少しかかるんじゃない?どっちが勝ったかなあ」
「紅勝てー!!」
「成美はどっちが勝ったと思う?」
「うーん。どっちだろう。いい勝負だったよ?」
その時、ドーンっという低い音が響いた。クラス中の生徒が窓の外を見た。
「やだ。雷!?」
「嘘でしょう?すごい音」
大沢は外の止まぬ雨も気になったが、目の前の空席の方が気になった。
その頃、俺は隣のクラスの女子と誰もいなくなった昇降口で話をしていた。嫌に白く明るい外の光が雨粒に反射して、昇降口はモノクロの景色となっていた。ザーという雨の音の響く昇降口で、見知らぬ女子は顔も上げず、小さな声で話し続けていた。
『点数の集計をした結果、優勝したのは……白組です!おめでとうございます!』
「ぎゃー!!負けた!マジか!!」
「残念だったねー」
「だねー」
康平と泉美、大沢が話しているところに、まだずぶ濡れ体操着でいた俺が帰って来た。
「……ただいま」
「うわっ、小山内!どこ行ってたんだよ!紅組負けちまったぞ!!」
「ああ、だな。着替えてくる」
「うわあ、クール。これだからイケメンは」
「ウザい。黙れ」
「あいでっ!」
俺は康平の額にデコピンをすると、制服を持ってトイレに行った。いつもと変わらないような様子に、大沢は逆に違和感を覚えた。俺はトイレの中で体操着を脱ぎながら、昇降口で聞いていた止まぬ雨の音を思い出した。
その帰りには、既にある噂が広がっていた。大沢がその話を聞いたのは、部活帰りの校門でのことだった。昇降口で俺を呼び止めた女子は両手で涙を拭い、その周りを何人かの女子たちが囲んでいた。
「千春が小山内君に告ったんだって」
「返事は?」
「ごめんって……」
「小山内君、”好きな人いる”ってフッたらしいよ」
「えーマジで!?」
大沢は心臓が爆発すように一回動いたのを感じた。一瞬、頭の中は真っ白になって、歩いているはずの足に地面を蹴る感覚がなくなった。やっぱりそうだった。見てしまった2人の雰囲気、昇降口の光景。唯我、告白されてたんだ!
ドクンドクンと心臓が強く脈打つので胸が痛くてたまらなかった。大沢は、体育祭の途中でした俺との会話を思い出した。
「大沢は、好きな相手が自分じゃない人とデートしてたり、付き合ったりしたら、どうする?」
「その人が幸せそうにしてくれてたら、私はそれで十分なの」
「……大沢らしいな」
私、あの時どんな気持ちで唯我に言ってた?唯我のために、言ってた?強引に納得しようとしていたのは、自分じゃないっ!
胸がギューっと強く締め付けられ、大沢は居ても立っても居られず走った。
****
夕方には、激しい雨は止んでいた。雲はゆっくり流れ、合間に見える空は赤く染まっていた。俺は一人、施設まで続く道を歩いていた。その道を通る度に、あの日の夜見た様子が浮かんだ。優里子の頭を大きな手が触れる。体を引き寄せた腕に見える銀の腕時計が光る。ほくそ笑む瀬良の顔。一生浮かび続けるんじゃないか。ムカつく。俺は足を速めた。
「唯我ー!!」
後ろから大沢の声がした。振り返ると、大沢が猛ダッシュで近づいてきているのが見えた。濡れたポニーテールが紐のように左右に揺れ、セーラー服の襟が風に乗って飛んでいきそうになっている。ひざ丈のスカートが広がって、危うく中身が見えてしまいそうだった。大沢は目の前まで来ると足を止めて、膝に手をついた。
「大沢、何だよ。急いで」
「ゆ、……唯我!あの、あのさっ!」
「落ち着け。息整えてから喋れよ」
「あの、私が言ったこと、撤回する!っていうか、もう私、やな奴だった!」
「何の話だよ」
「好きな相手が自分じゃない人とデートしてたり、付き合ったりしたらどうする?って話よ!」
大沢は汗の流れる顔を上げ、俺をまっすぐ見つめた。その目は西日に照らされて、うるうるしていた。
「私は……、その人の幸せを一番に思ってる。それは確かにそうなの。でもね!やっぱり、自分が幸せになる方法が知りたい!」
「……」
「そのために、一番努力したいっ!勇気いっぱい振り絞って、カッコ悪くてもいいから、自分のために頑張りたい!」
まるで今にも泣きそうな様子で、両手に拳を握って力いっぱい言ってくれた言葉が、俺の中に停滞していたモヤモヤを一気に晴らしてくれた。
「大沢、お前……」
「何よ」
「やっぱり、いい奴だな」
「いい奴じゃないもん!嫌な奴だもん!」
「何だよ、嫌な奴って」
「だってえ」
「はは。泣いてるしっ」
大沢は勢い余って本当に泣きだしてしまった。ガキみたいに泣いている大沢を初めて見た俺は、申し訳ないけど、笑えて笑えてしょうがなかった。それまで通る度に暗い嫌な気持ちになっていた道が、腹を押さえて爆笑できる道になったのは、大沢のおかげだ。
二人で歩いていると、車道を一台の車が通り過ぎた。施設の買い出しから戻ろうとしていた優里子だった。
「あれ、唯我?……めっちゃ笑ってる」
交差点の赤信号で止まり、優里子はバックミラーに写る俺と大沢を見た。すると、優里子はこのタイミングで思い出してほしくはなかった俺の言葉を思い出した。それはお花見デートの時に俺が言った言葉だった。
「最近、よくデートしてる奴」
そうか。最近よくデートしてるって子はあの子か!
バックミラー越しの俺と大沢は手を振って別れ、俺は一人、優里子の止まる交差点に近づいた。俺は優里子の車に気づかず通り過ぎようとした。その時、プップと音が鳴らされた。
「唯我、体育祭お疲れ」
「優里子……」
「乗ってく?」
「いや……」
俺は優里子の顔を見ると未だにイラついたが、大沢が言ったことを思い出した。
「自分が幸せになる方法が知りたい!」
俺の幸せは、優里子と一緒にいることだ。どんなにイラついても、ムカついても、優里子のことを嫌いになんかならない。
「嫌ならいい。歩いて帰ってください」
俺は助手席のドアを開け、勝手に車の中に入った。
「一緒に帰る」
「……最初から、素直にそう言いなさいよね」
「優里子、俺さ」
「はいはい。何でしょうか」
「優里子が誰かの彼女になるの嫌だって、あれ本当だからな」
青信号で発進した車は、交差点のど真ん中でギュッと止まった。
「……どういう意味よ」
言おうとすると、心臓が早く動き過ぎて口が回らなくなってしまう。しかし、俺は「勇気いっぱい振り絞って」言った。
「俺と一緒にいろよってこと」
「……は?」
優里子の左手を強引に掴み、指を絡ませてぎゅっと握った。じっとしばらく見つめ合っていると、交差点にブーブーと音が鳴り出した。気づくと、俺たちの進行方向の信号機は赤くなっていた。
「わあっ!唯我のバカ!運転中に手を握らないで!」
「運転中じゃなければいいの?」
「そういう問題じゃないわよ!!」
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