第49話 表裏一体

『Aファイブのライブはどうだった?』

『すげー盛り上がってた!面白かった。感動した』

 樹杏は俺とのメッセージのやり取りを見て、ふふっと笑った。車の外には、寒々しい大阪の景色があった。冷たいコンクリートの上をスタスタ歩いて行く人たちの息は真っ白で、服をモコモコに重ねている。外を出歩く人の数も、何となく少ない。

 道頓堀の橋に差しかかった時、橋の上にたくさんの人たちが集まっているのが見えた。人々は同じ方向を見て固まっている。

「何かしてるのかなあ」

「どうやら、動画を撮影しているようですね」

 答えてくれたのは、車を運転する樹杏のマネージャー、小池君だった。

「何の動画?」

「道頓堀の手すりの上で踊っている方がいます。……裸で」

「こんな寒い中?バカなんじゃないの?」

「そういう趣旨の動画でしょう」

「どうせなら、もっとカッコイイ動画撮ればいいのに」

「あ、落ちますね」

「ええっ!?」

 運転手さんの言う通り、裸踊りをしていた人はバランスを崩し、バッシャーン!と派手な音を立てて川へ落ちた。

『昨日、午後13時頃。大阪府道頓堀川の橋から、人が落ちる事故がありました』

 そのニュースを見たのは、事務所の隣にあるジェニーズの宿泊施設、通称”城”の807号室、樹杏の部屋だった。樹杏は「これこれ!」とテレビ画面を指差し、その時の状況を説明した。

「これを見てね、僕も考えたんだ。安直かもしれないけれど、Y&Jの活動は、ネット動画がいいんじゃないかって!」

「俺もAファイブのライブを見てからずっと考えてた。やっぱりジェニーズはカッコよく歌って、カッコよく踊れるのがいい。だから、俺たちの意見をまとめると……」

 その時、樹杏の部屋にインターホンが鳴った。樹杏がインターホンモニターをのぞき「はーい」と返事した瞬間、根子さんの声が割れて響いた。

『唯我君!そこにいますか!?いるなら出てきなさい!!何時だと思ってるの!?』

「ネコちゃんのこんな声、初めて聞いた!こわーい」

「ってか、今?……あ、ヤバい!10時過ぎてる!か、帰るっ」

 ドアのロックを開ける樹杏の後ろにくっついて行くと、開いたドアの向こうで根子さんが怖い顔をして立っていた。腕を組み、俺たちを見下ろす表情からは、静かな怒りがふつふつと音を立てて燃えていた。

「や、やあ!ネコちゃん!遅くまでお疲れ様……」

「唯我君、先ほど事務所に施設長からのお電話をいただきました。連絡もつかず、まだ帰宅していないと。私がここにいることに気づかなかったら、一体いつまで樹杏君のお部屋にいらっしゃるつもりだったのですか?!」

 俺は自分のスマホを確認した。画面には、施設からの着信と優里子からの着信、メッセージがあったことが表示されていた。

「……全然気がつかなかった。本当にすみません。ご迷惑をおかけしました」

「さ、荷物を持って」

「唯我!泊まっていけばいいよ!まだまだ話し足りないし!」

「却下。帰りますよ、唯我君。明日は劇場ライブでしょう」

「はい……」

「ああ、ちょっと待って!ねえ、ネコちゃん!」

「何でしょう」

「僕たち、Y&Jでカッコよく歌って、カッコよく踊る動画ってできないかって考えてるんだけど、どう思う!?」

「……要検討課題とし、本日は持ち帰らせていただきます」

「ええっ!?」

 俺は根子さんの後を追って、樹杏の部屋を後にした。施設までは根子さんが送ってくれて、到着すると、根子さんは施設長に深々と頭を下げ、俺はこっぴどく怒られた。

 事務所に戻った根子さんは重いため息をもらした。事務所の時計は、既に12時半を過ぎていた。周りに残る職員たちにも、隠しきれない疲労感が立ち上っている。根子さんはデスクの前で眉間をギュッと指でつまみ、目を休めた。

「そうなんですよねえ。いい曲なんですよねえ」

「だよねえ。どうするのがいいのだろう……」

 隣の席の先輩たちが、ため息混じりの会話をしていた。

「何かお困りですか?」

「最近の子たちって、昔のジェニーズの曲とかあまり知らないよねって話よ。青春隊の曲とか、カッコイイ曲も多いんだけど、なかなか聞く機会もないじゃない?改めて知る機会ってどうやったらもてるかしらね」

「問題は、どうやって発信するかってところですよお。若い人たちがよく触れて抵抗なく耳にすることのできる機会をどうつくるか……」

 根子さんはふむと考えてから、引き出しの中にしまっていた雑誌『MyJe』を取り出した。付箋をつけたページを開くと、Y&Jと大きい文字に俺たち二人が写っている。樹杏はニッコリ笑い、俺はむすっとした顔をしている。ページの下には、Q&Aコーナーがあり、根子さんはそのうちの一行を指でなぞった。

「初めて二人で踊った曲は?青春隊の”疾風”……」

「ん?ああ、Y&Jの特集じゃない。へえ。”疾風”知ってるんだ」

「ええ。お二人とも、千鶴さんが大好きで、青春隊とか、他にも二人で……」

 そこで根子さんは、樹杏の言葉を思い出した。

「僕たち、Y&Jでカッコよく歌って、カッコよく踊る動画ってできないかって考えてるんだけど、どう思う!?」

 なるほど、ピンときた。

「あの、お話があるのですが……」


                ****


 次の日、拍手と一緒に歓声が響く劇場で、俺はバックダンスを踊っていた。ステージに立っているメイングループは、関西を拠点に活動する「レゴリス」というグループで、まだメジャーデビューして2年しか経っていない。そのグループにいたのは、デビューを機に大阪の高校に進学した友達、矢久間栄次だ。

 矢久間はイヤホンマイクを通して歌いながら、メンバーと踊り、観客へのウインク、手を振るアドリブを慣れたようにしていた。久々に再会した矢久間が、まるでアイドルのようで驚いた。

「唯我!久々に一緒に踊ったな!俺、すっげー嬉しかった!」

「俺の方こそ。一緒にできてよかった」

「久々に会えたってのに、時間全然ねえだよな。今日もこれからバラエティー番組の収録でさ、少し休んだら、朝のニュース番組にちょこっと出て、それから」

 矢久間は申し訳なさそうな顔をしながらも、明るい口調で話していた。忙しくて大変なことも、嬉しそうなのが伝わってくる。それが矢久間らしくて笑えた。

 しかし一瞬、あのクリスマスライブの時に見た暗闇からの光景が頭をよぎる。すると、胸の奥で少しだけ重たい何かが湧いてくるような感覚がした。

「矢久間、またな」

「おう!またな!」

 矢久間はアイドルスマイルで手を振り帰っていった。矢久間を見送ると、俺は廊下にポツンと一人立っているのを感じた。腹の奥に湧いて出てきた重たいものが体を締め付けた。一緒に頑張ってきたと思っていた奴が、俺の前でスポットライトを浴びている。それが悔しくて、少し憎らしくなる。うらやましくて、矢久間のことが嫌いになりそうだ。

「頑張るって、決めたんだから、間違えるな」

 自分が嫌になる。髪の毛をかき上げ、目を閉じる。自分で納得できない怒りがこみ上げる。こういう時は、神経を全部集中させて踊るのが一番だ。俺は衣装を脱ぎ、事務所に直行した。

 事務所に着くと、「唯我!」と呼ばれた。エントランスにいた樹杏が駆け寄り、俺に抱きついてきた。

「お疲れ様!劇場ライブ、今日は2本あったんだたってね!さっきネコちゃんから聞いた!」

「そうだけど、とりあえず離れろ。鬱陶しい!」

「あ、ネコちゃん連れてくるよ!さっきいたから!」

「あ、おいっ!」

 樹杏は事務室へと走って行ってしまった。エントランスの時計は8時になろうとしていた。どうしよう。せっかくレッスン室で踊ってから帰ろうと思ったのに、樹杏に捕まってしまった。これは長くなりそうだ。

 そう思っていると、樹杏のマネージャーである小池君が近づいてきた。

「いつもごめんなさいね。樹杏は、思いつきで行動することがすることが多くて……」

「ええ。まあ知ってるし、慣れてるし。平気です」

 多分、小池君には俺のイライラが少し伝わっている。「すみません」と呟くように言った。

「ここ最近、樹杏の口癖は、”Y&Jは”です。きっと、根子さんを連れてきて、そのお話がしたいのでしょう」

「……そう、ですか」

 俺は少し反省した。樹杏はY&Jのことを考えてくれているのに、俺は自分のことばっかり考えていた。

「僕自身は、Y&Jがとても好きです。まるで正反対の凸凹コンビというところが、とても面白い。さすがは、スーパーアイドルの秋川千鶴さんがつくったユニットです」

「まるで正反対の……。まあ、確かに」

 しばらくすると、事務室から樹杏と根子さんが出てきた。俺は頭を軽く下げた。

「唯我君、本日もお疲れ様でした」

「お疲れ様です」

「少しお話してもよろしいでしょうか。Y&Jの活動について」

「はい」

「小池君も、一緒に来てください」

「はいはい」


                ****


 俺たちは会議室に入り、ホワイトボードの前に座った。

「事務所でも、歴代のジェニーズの曲をもう一度発信する方法を探っていました。そこでY&Jには、その発信源となってもらいたいのです」

「発信?」

「はい。先日、樹杏君がおっしゃってくれましたよね」

「ああ!Y&Jでカッコよく歌って、カッコよく踊る動画!」

「それを利用させてほしいのです」

「なるほど。つまりは、事務所の意向とY&Jの提案は合致したということですね」

「その通りよ、小池君」

「わおっ!すごいじゃん!つまりやらせてくれるってことだよね!?」

「はい。上への具体的な提案は今後しますが、ここでは、最も大事なことを決めたいのです」

「大事なこと?」

「考えて下さい。お二人が単純に歌って踊った動画という安易なものでは、Jrのどの子がやっても変わらないのです。つまり、Y&Jが歌って踊る、このことに付加価値をつけることこそが、最も大事なのです。Y&Jだからこそ、カッコいい。そういう動画にしなくてはなりません」

「僕もそれがいい!!どんなことならカッコよくなるかなあ」

 4人でうーんと考えた。俺は小池さんの言葉を思い出した。

「まるで正反対の凸凹コンビが面白い……」

「え?」

「これって、つまり俺たちの特徴の一つなんですよね、小池君」

「え、う、うん。まあね。っていうか、唯我君も”小池”なんだ……」

「だったら、それを全面的に押し出すのはどうだろう。俺たちの正反対のところ」

「正反対かあ。ふふっ。まるでジールだね!」

「ジール?」

「千鶴さんの舞台の?」

「そう!」

 樹杏が笑って言った一言で、俺は「ジール」のポスター写真を思い出した。当時、樹杏の代役で演じたジールの写真は、樹杏は笑い、俺は俯いていた。その画像を見て、俺も正反対のジールだと思った。

「……そっか。正反対のジール。俺たちの特徴、面白さ。樹杏それだっ!」

「へ?」

「雑誌の『MyJe』で、俺たちのコメントで一番大きな字で書かれていた言葉は?」

「”二人は仲良しですか?”の答えだっけ?僕は”はい”で」

「俺は”いいえ”だった。ジールは、樹杏が明るいジールで、俺は暗いジールだった。見た目だって言えるんじゃないか?クリクリした赤髪の青い瞳の樹杏、まっすぐな黒髪に黒い瞳の俺」

「……僕、見た目の特徴言われるの嫌い。確かに、この日本人離れした姿が特徴的だったから、俳優の大貫樹杏は売れたんだと思ってる。でもなあ……」

 樹杏は頬をぷくっと膨らませた。

「それを言ったら俺だってそうだ。女みたいにサラサラってからかわれたこともある。ただ黒くて、ただまっすぐ。だけど、それが樹杏と並んだ瞬間、それは俺たちの特徴の一つになるんじゃないか?」

「僕の見た目が、唯我と並べば価値が出るってことか。あ、それって!YにはJが必要で」

「JにはYが必要、だろ?」

「うん!うん!」

 俺と樹杏は二人でこれをあれをと話を進めた。それを根子さんと小池君は静かに見守った。

「僕たちの特徴が正反対なら、それを活かした方がいい」

「だったら鏡合わせみたいに踊るのはどうだろう」

「それいいかも!同世代の人たちが真似したくなるようなのがいいから、衣装も凝ったのじゃなくて、制服っぽいのがいいね!」

「できる限り分かりやすく、できる限りシンプルに作ろう」

「うん!」

「同世代をターゲットにするということであれば、動画の配信は3月の春休み前から始めましょう。毎週アップを目標に、ジェニーズの曲をお二人に踊ってもらいます。曲の選定は私の方でしてよろしいですか?」

「はい!」

「お願いします」

「かしこまりました」

 根子さんは自分のメモ帳にスラスラとペンを滑らせた。すると、樹杏が思いついたように「あ!」と声を上げた。

「ネコちゃん!わがままを言ってもいい?」

「何でしょうか」

「一番最初は、青春隊の”疾風”がいい!唯我と二人で初めて踊った曲だから!」

 樹杏はニコッと笑った。まるで夏の空の下に咲くヒマワリのように元気で明るいアイドルスマイルだった。その笑顔につられて、俺も笑った。

「俺からも、お願いします」

「もちろん、そのつもりでしたよ。お二人には、ダンスの練習をしてもらわねばなりませんね」

「「”疾風”なら、今すぐにでもできます!」」

「明日やろう!唯我!」

「そうだな。まずは」

「明日では、こちらの準備が整いません。万全の準備をしてから、始めましょう」

「あ、ありがとうございます」

「では、本日は解散。後日、準備を済ませましたら連絡を差し上げます」


                ****


 数日後、事務所の地下体育館の壇上に真っ白な幕を天井から床まで垂らし、俺と樹杏はスタートポジションでポーズを決めた。家庭用カメラは事務所にあったものを根子さんが用意した。衣装はあえて黒スーツ。樹杏はオレンジのリボン、俺は水色のネクタイを締めて区別をつける。

 始まった曲は、青春隊の「疾風」だ。俺と樹杏は、青春隊だった千鶴さんの振り付けを左右対照に踊る。腕の振りの大きさやステップの幅を限りなく正確に合わせ、まるで鏡に写っているように動く。根子さん、小池君に見守られながら、最後のポーズを決め、5カウントすると、根子さんの持つカチンコが鳴った。俺と樹杏は体の力を抜き、ハイタッチした。

「次の曲の完成度はどうですか?」

「樹杏がまだできてない」

「違うよ!唯我が僕を置いてけぼりにしちゃうんだよ!」

「だから、それは、お前があそこでステップを」

「はいストップ!」

 俺と樹杏が言い合いになりそうになった瞬間、根子さんがぺちんと軽く頭を叩いた。

「言い合う時間はありません。次の撮影は一週間後です。頑張ってくださいね」

「「はい……」」

 撮影を終え、事務所のエントランスにさしかかったところで、レゴリスの矢久間と会った。

「唯我!」

「矢久間……。もうライブも終わって大阪に帰ったのかと思ってた」

「いや。仕事で今日までこっちだったんだ。だけど、今日の夕方の新幹線で帰る。さっきC少年の聖君と貴之に会って、唯我がまだ事務所にいるって言うから、待ってたら会えるかなと思ったんだ。会えてよかった」

 矢久間が俺に会うために待っていてくれていたことが嬉しい。同時に、劇場ライブで感じた矢久間への嫌な気持ちを持った自分が恥ずかしくなった。

「矢久間、嬉しいけど、正直すぎて気持ち悪い」

「何だと!?こ、こっちだって言うの恥ずかしいわ!つっこむなよな」

「ははっ。相変わらずだなあ。矢久間は」

「お前もな。むしろ前よりも生意気になったんじゃねえの?」

「少しくらいならいいだろ」

「はいはい。唯我、大阪来ることあったら連絡しろよ。案内してやるよ」

「サンキュ。俺、頑張るよ。矢久間に負けねえくらい」

「ああん?俺に敵うわけねえだろ。だって、俺もっと頑張っちゃうもん!ひひっ」

「またな、矢久間!」

「またな!唯我!」

 俺と矢久間は拳を合わせた。矢久間は笑顔で事務所を後にした。早く矢久間と同じ場所に立てるジェニーズになりたい。そのために一歩ずつ進んで行こう。矢久間を見送っていると、後ろから樹杏が抱きついてきて、俺の肩にあごを乗せた。

「あいつ、まあまあイケメンに育ったな」

「元々イケメンだったろ、矢久間は」

「僕の愛しの唯我には敵わないさ」

「それはない。キモイから離れろ」

 樹杏は「ちぇっ」と言って離れた。すると、事務室から根子さんが走ってきた。

「唯我君!良かった!まだ帰ってなくて」

「どうしたんですか?」

「12月に受けていただきました"竹林のライオン"の2次選考の結果ですが、通過です。合格しました!次は3次選考が行われます」

「え?わっ!や、やった!」

「油断はできませんよ、唯我君。あの後、小説は読み終わりましたか?」

「あ……、えと……」

「読み終えましたよねえ?」

「……いいえ」

 正直に言いますと、12月のオーディションの後からサボっていた。根子さんから感じる迫りくる怒りが恐ろしく、本当のことは口が裂けても言えない。

「来週は長崎ですね。それまでには読み終えて下さいね」

「はい……」

「え!?唯我、長崎に行くの!?おみやげよろしく!カステラよろしく!!」

「お前はダンス練習しとけよな!」

「うんうん。わかってるって!」

 その日撮影した動画は、打ち合わせた通り、学生たちの春休みを見込んで3月中旬に配信された。


                ****


「唯我君、すみません。ここまでしかお見送りできず……」

「大丈夫です。行ってきます」

「はい。お気をつけて。何かあれば24時間、いつでも対応いたしますので」

「ありがとうございます」

 根子さんと一緒にいたのは空港だった。俺はこれから長崎へと向かう飛行機に乗るところだった。根子さんと別れ、俺は一人、飛行機の搭乗口の前に座っていた。

『気を付けてね!明日にはお父さんも長崎に行くから、二人で合流して、無事に帰ってきてね』

 スマホには優里子からのメッセージが届いていた。俺は『大丈夫』とだけ送った。すると、すぐに返事が返ってきた。

『今日はね、施設の皆で”松千代”を見るよ!バッチリ予約したから、DVDに焼くつもりです!』

 顔が一気に熱くなった。忘れてた。今日は夏に代役として撮影した”松千代”が放送されるんだった!皆はあの坊ちゃんちょんまげを何て思うのだろう。優里子め、余計な事思い出させてやがって。

『唯我!明日の撮影も頑張ってね!』

 イラストのネコが親指をグッと立てているスタンプが画面に表示された。同時に、搭乗案内のアナウンスが流れた。

『サンキュ。行ってくる』

 施設の居間には、坊ちゃんちょんまげの”松千代”を見るべく、ガキたちや職員たちが集まっていた。

「ねね、にいに出る?」

「みこちゃん、唯我ちゃんと出てくるよ。楽しみね」

「うん!」

 笑うみこの頭を撫でながら、優里子は天井の、その向こうにある空を見上げた。唯我、どうか無事に撮影を済ませて、帰って来てね。

「あ、始まったよ!!」

 泰一の大声の後、テレビからはチャラリーンと時代劇のオープニング曲が流れ始めた。

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