第35話

 会計を済ませ、店を後にし、僕たち二人はJR市ヶ谷駅のホームで電車を待っていた。僕は津田沼行きへ、櫻井は三鷹行きへ。

 頬を撫でる夜風が心地いい。火照った体を冷ましてくれるようで、酔った頭を醒ましてくれるようで、段々と僕も落ち着いてきた。

 東京の夜は騒がしいと、そう櫻井は言った。僕は生まれも育ちも東京で何の比較もできないが、とにかく櫻井にとって東京の夜とはそういうものなんだそうだ。

「……」

「……」

 数分にわたる沈黙。しかしこれは良い沈黙だ。お互いが安心しきって、沈黙を怖がらない。むしろ楽しんでいる。僕たちが慣れ親しんだ友人であることの証左だった。

「……」

「……」

「……どうして」

「ん?」

「どうして半年で賞誇会を辞めたの? 中津川さんの言葉に感動したから、櫻井は賞誇会に入ったんだよね? 人生を人生たらしめるために、決して無意識なまま毎日を送らないために。賞誇会で何かあったの? ……櫻井は、賞誇会で一体何をしていたの?」

 それなのに、僕はつい櫻井に訊いていた。証左である沈黙を破ってしまった。

自分でもどうしてこんな質問が口をついて出てしまったのか分からない。しかし、これはどうしても聞かねばならないことのような気がした。

僕が声のトーンを落としてゆっくりと噛みしめるように話すと、櫻井はどこか吹っ切れたような、どこか悲しそうな、その二つが共存しているような、そんな名状しがたい表情を浮かべた。

「そうだよ。そのはずだったんだ。でもさ――」

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