第30話

 虹を構成する色はいくつかと聞かれれば、おそらく大抵の日本人は「七つ」、「七色」と答えることだろう。三色鉛筆をレインボーカラーと評する人はまずいないだろうし、虹を実際に描かせてみれば、みんな七種類の色を順番に重ねていくはずだ。

 がしかし、いざアメリカに目を向ければ七色は六色に取って代わられ、ロシアでは四色になる。二色と答える部族もあれば、八種類の色を使って虹を描く部族もいる。

 つまりは文化の違いであると、そう一言にまとめられてしまうような些細な差異だが、では実際に彼らが見る虹はそれぞれの文化によって違うのかと言われれば、そんなわけではない。世界中の人間が、同じ原理に基づいて、同じ構成過程を経て出来上がった虹を目にしているはずなのだ。

 けれども、虹は二色と言われて育った部族は虹を二色として認識しているはずだし、同様に八色と言われて育った部族は八色と認識している。見ているものは同じもののはずなのに、だ。

 世界とは、虹という事物ではなく、虹は○色であるという事実の総体から成り立っているのだ。

 ………………。

 …………。

 ……。

「インディゴ色の世界へようこそ、崇人くん」

 中津川は、青ではない、藍色の小冊子を手に取り、笑みを浮かべた。

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