第25話

 そんな話をしているうちに、電車は亀戸駅を通り、平井駅を通り、新小岩駅へと到着した。

「んじゃあ、降りよっか。ここだよ」

 人波をかき分けるとはいかないまでも、群衆の隙間を縫うようにして電車から降りる。夜だというのに、外はまだかなりの暑さだった。

「この駅、投身自殺が絶えないらしいんだけどさ」

「縁起でもない」

「うん、演技じゃないよ。自殺者が多いのは事実」

「……」

 噛み合わない。それともからかっているのか?

「私も一回その自殺の現場に遭遇しちゃって。その時印象に残ったのが、周りの人の反応。みんなインパクトの瞬間には目を背けるんだけど、車両と人体のぶつかる鈍い音と耳をつんざくようなブレーキが止んで数瞬、彼らは現場を確認しようと目を向け、首を伸ばし、体を向け、つま先立ちになり、最終的に現場まで足を延ばしたの」

「野次馬ってことですか?」

「そう。私その時思っちゃったんだ。『ああ、みんな非日常を求めてるんだな』って」

 改札を抜け、南口から駅を出る。目の前の交差点を左に曲がった。

「何か裏切られた気分。目の前で人が死んだっていうのに、みんなは自殺した人を悼むよりも先に、自分の好奇心を満たすことを選択したんだ」

 まるで自分のことを言われたような気分になる。おそらくだが、もし僕が同じような現場に遭遇したとしたら、間違いなく好奇心を満たすことを第一の目的に行動を起こしたことだろう。自分のことを言われたようであり、責められている気分だった。

「まるで……そう」

 中津川は憎々し気な目つきで、かつてないほど低い声とともに、ある店を指さす。

「ネギたっぷりが売りのラーメン店で、人が涙をこらえながら必死にネギと格闘しているというのに、両隣のお客さんがそれを嘲笑うかのようにネギ抜きを注文した時のような……」

 中津川の指さした先には、ラーメンのコンテストで優秀な成績を収めたことを大々的に宣伝している、とあるラーメン店があった。

「許さない……!」

「……」

 ノーコメント。

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