第22話

「普段から話しているわけじゃないから加藤も丸山も知らなかっただろうけど、実は私も群馬の出身なんだ。それも太田市の、ね? 当ててあげよう、君は桐生市の出身でしょ? みどり市をみどり町に格下げして偽の住所を作るなんて、桐生市の人間にしかできないよ」

 詳しくは地図を見て確認してほしいが、桐生市とみどり市は非常に特徴的な位置関係にあるのだ。桐生市民にとってみどり市とは邪魔者に他ならない。僕のみどり市に対する憎しみがみどり町という言葉に表れていたというのか……!

「だから、あの後、実は家までつけさせてもらったんだけど……気づかなかった?」

「……まったく」

 僕は驚きと焦りを表情に出すまいと必死だった。なんだ? てっきり加藤と丸山が来るものとばかり思っていたが、違うのか? というか待て、家までつけた? つまり、僕の住所はすでに割れている……?

「ああ、大丈夫大丈夫。今回は私の独断。加藤と丸山も多分来てるんじゃないかな? 別に彼らに君のホントの住所を教えるつもりもないよ」

「何でです?」

「何でだと思う?」

「いや、分からないから聞いてるんですけど」

「だからその上で予想してって言ってるの」

「……」

「あ、今面倒だって思ったでしょ」

「よく分かりますね」

 彼女の格好は以前に教会で見た姿とほとんど変わっていないように思う。同じパンツスーツに、同じ厚くない化粧。さすがに下半身をジロジロと見るような真似はしなかったが。

「まあいいや。早く行こ」

 僕に答える気がないと察したのか、彼女は会話を打ち切ると椅子から立ち上がって言った。商品を買ってもいないのに貴重なイートインのスペースを二席も占領していたことに気まずさを覚えたわけではなさそうだが、ひょっとすると、加藤たち二人に見つけられてしまうことを恐れたのだろうか。

「え、いやどこに?」

「決まってるでしょ」

 自動ドアを抜け、彼女は階段を一足飛びに降りた。

「私の家だよ」

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