第21話
それからの一週間は別にどうということもなく、そして約束の木曜日になった。一応念のため、日本文学科一年のLINEグループに
『なんか今日の二十時に宗教関係の人が市ヶ谷駅に来るらしくて、たぶん大丈夫だと思うけど、そういうの怖い人は近づかないでね』
と警告らしきものをしておいた。僕が被害にあうのは自業自得で仕方ないとしても、さすがに何の関係ない同学の士を危険にさらすというのははばかられた。僕は気遣いの出来る男なのである。
このまま約束の時刻を家で、いや、家でなくともとにかく市ヶ谷駅以外のどこかで過ごせばいいのだが、そこは好奇心の塊、櫻井が許してくれなかった。ほんの一時間、たった一時間の散歩という名の偵察を我慢すれば、僕と彼らはもう二度と関わることもなく、再びそれぞれの人生に還っていったはずなのだ。未来の僕が当時を思い出して、最大の失敗とは何かを考えたなら、木曜日の二十時に市ヶ谷駅へ向かってしまったことが見事選ばれるに違いない。
だが、しかし。
変えようのない事実として、僕は駅へと足を延ばしてしまったのだ。
僕は市ヶ谷駅の近くにあるセブンイレブン、そのイートインの席から外を、市ヶ谷駅の周辺を歩く人の波を、眺めていた。つまり、意識の大半をそちらに向けていたことになる。
だから、気づかなかった。気がつけなかった。
「リーダー的存在と、そうでない人との違いは、何だと思う?」
後ろからやって来た、スーツ姿の人物の存在に。
「簡単だよ。魅力的かそうでないかなんだから。リーダーというのは全て、魅力的であるというその一言に尽きるんだ」
いや、仮に、もし僕が後ろにも意識を割いていたとしても、果たして気づくことが出来ていたかと問われると、僕は自信をもって首を縦には触れなかっただろう。
「だから、私にとってのリーダーは白鷺会長、ただ一人。後にも先にも、彼一人」
だって、彼女は記憶に残らない顔をしていたから。
「久しぶりだね、桜井崇くん?」
隣の席に座りながら、パンツスーツ姿の女性は、入信申請書に書いた僕の偽名を呼んだ。
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