第17話
「この後時間ある?」
礼拝が終わり、各々のグループが続々と畳敷きの部屋を退出、そのまま建物からも出たところで、僕は久しぶりに丸山の声を聞いた。毒を食らわば皿までという言葉を頭に浮かべながら、頷く。まさかそのまま車へと連れ込まれて二時間ほど話をされるとは露ほども思ってはいなかったが。暑いから車の中で話そうと言われた時はさすがに身の危険を感じた。
「正座大丈夫だった?」
「ええ」
「それで……どう、礼拝は?」
「なんか、すごかったです……こう体の中が熱くなっ」
「胡散臭いでしょ」
「……」
なぜ、彼らは、人がせっかく純真無垢な大学生を演じようとするのを阻むのか。
………………。
…………。
……。
それからの二時間は、主に丸山がこれまでに功徳を積んでどのような恩恵にあずかれたかという話と、日蓮が奇跡を起こして斬首を免れたという奇跡についての話(やはりこれも後で調べたことになるが、この話自体は伝説としてではあるが別に彼らの創作というわけではないらしい)と、最後に、いかに賞誇会が素晴らしいところかという話の三つだった。
「賞誇会はお金を取らないから。お金を取るところはみんな金儲け団体。ほら、今日だってお経と数珠、お金取ってないでしょ? ホントは合わせて五百円するんだけど、加藤くんが払ってくれたんだから」
そこで丸山が他人の金で得意げな顔をしてどうするというのか。
「で、金儲け団体の最たるところが創価学会ね。賞誇会はそこから派生したんだけど、白鷺会長っていう、私たちのお師匠さまみたいな人が、それは違うって言って出来たのが賞誇会。残念だけど、インターネットで検索すると賞誇会について悪いことばっかり書かれてて、それはね、賞誇会が正しい教えを広めちゃうと金儲け団体が困っちゃうからなんだよ。だから創価の奴らはネットで私たちに関するデマばっかり流してるってわけ」
何て都合のいい解釈なんだろう。
それにしても、やはりファミレスではずっと暇だったのだろうか、丸山はいかにも話すことが楽しいといった風に、イキイキと話してくれた。アルコールでも入っているんじゃないかと疑ってしまうくらいずっと笑顔だった。内容が日蓮すごい白鷺会長すごい賞誇会すごいといったものでなければ、その姿は単なる人の好いおっさんでしかなかった。
「……櫻井くん時間大丈夫?」
「あ、はい」
「そうなんだ、ふうん……すごいね」
反対に、加藤は不満の色を隠さなかった。いかにも暇だと言わんばかりにスマホをいじっている。自分はファミレスで三時間以上も話していたというのに、いざ他人の話を聞くという段になると、彼は一時間も我慢できないらしい。
そして話も終盤に入り、
「だから、とにかく騙されたと思って、朝の一回、十五分間だけでも礼拝堂の方角を向いて、櫻井くんには礼拝をしてほしい。そうすれば功徳が必ず現れるから、ね……それで、一週間後くらいにもう一度会おう。会って、櫻井くんにどんな功徳がもたらされたのかについて、話し合いたいんだ」
「は?」
来る者拒まず去る者逃がさず、おそらくこれもマニュアルというか定跡なのだろうが、彼らは僕をそのまま逃がすつもりは、どうやらないらしかった。
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