第11話
「それで、日本が滅んでしまうことは確定しているんだけど」
確定しているのか。
加藤は話を続ける。丸山は黙ったままだ。僕もだんだんと相槌を打つことに疲れてきていたので、僕たちの座るガストのテーブル席は、気づけば加藤の講釈会場と化していた。
「唯一、その滅亡から逃れられる方法があるんだ。話は戻るけど、僕はリーダー的存在になりたかった。結局なることはできなかったんだけど、それは櫻井くんが小説を書いたり、エロゲーをしたり、東京を観光することと、根っこの部分では変わらないんだ。僕と櫻井くんだけの話じゃなくて、今は技術が進歩して便利になっているのも、すべてはある目的のために、ある願いのためなんじゃないかな? 櫻井くんは、それは何だと思う?」
もはやここまで来れば、加藤と丸山、彼ら二人は別に僕とアダルトゲームについて話がしたかったわけでもなく、もっと別の、例えばつい先日死刑が執行された「彼ら」のような、そんな団体に属している存在なのではないかとかの予想はついている。話はいよいよ本題に迫ってきていた。
さて、僕たちは何のために、小説を書き、リーダー的存在になりたく、技術を進歩させてきたのか……ここで求められている答えとは何だ。まさか「幸せになりたい」とか、そんな安易で安直なものではあるまい。
「みんな『幸せになりたく』て、生きてるんだよ」
安易で安直だった。
「水、いる?」
丸山が沈黙に、退屈に耐えかねたのか、不意に席を立ち、僕と加藤に尋ねた。僕のグラスにはまだ充分水は残っていたので、加藤と合わせて二人分――二杯分――の水を丸山は取りに行く。
一瞬話が途切れたが、すぐに加藤はこちらに向き直った。
「興味なさそうだね」
「感情が表に出てこないタイプですので」
こちらとしては早く話を進めてほしいのだが、それはやはり黙っておいた。どうせすぐに話を再開するだろう。
「それで、さっきの話だけど」
ほれみろ。
「さっきも言ったように、みんな幸せになりたくて生きてるんだ。僕がリーダーになりたかったのも、櫻井くんがエロゲーをするのも、技術が進歩してきたのも、みんなみんな幸せになりたかったら。でもおかしいよね? みんなが幸せになりたくて、幸せに生きたいっていうのに、実際の日本はどんどん自殺者が増えていて、もうすぐ首都直下型地震が起きて日本は滅んじゃうんだから。
そこで、だ。やっぱりさっきも言ったけど、それを解決する唯一の方法がある。歴史上で唯一、幸せになる方法を見つけた人がいるんだけど……誰だか分かる?」
「……いえ」
さて、親玉は誰だろう。キリストだろうかムハンマドだろうか、ブッダだろうか……それとも存命の教祖様だろうか?
「日蓮、っていうんだけど」
……。
ああ。
創価の流れか。
もうちょっとマイナーな新興宗教の方が面白かったんだけどな。
加藤と丸山は、今更の紹介になるが、僕を入信させようと勧誘に来たのだった。
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