第10話
「じゃあ話は変わるけど、今の世界ってどんどん大変なことになってない?」
なんとも唐突だった。加藤はまた手を組んでテーブルに身を乗り出し、丸山もまた黙り込んだ。コーンはすべて平らげたようだったが。
後から思えば、別のアプローチに移行したのだろう。
「僕思うんだけど、技術が進歩して世界は便利になってるはずだけど、それに反比例するようにして、みんな不幸になってるよね? 日本の自殺者だって年々増えてるんだよ?」
せめて統計を見ることくらいのことをしてからそんな話をしてほしかった。これには少し興味をひかれたというのに、勝手な思い込みで話を作らないでほしい。実際は減っている。
加藤は僕の反応も構わずに続けた。
「それに、日本は借金も千兆円以上あるし……櫻井くんは知ってる? 今度東京で起こる大きな地震のこと」
「首都直下型地震ですか?」
「そう、それ」
加藤はさらに身を乗り出した。加藤と僕は四人掛けテーブルの、対角線上の位置関係に座っていたので、別にぶつかりそうなほど顔が近づくということはない。
「それでね、その首都直下型地震の規模は分かる? M9を超えるような大地震で、ほんとすごいの。どのぐらいすごいって、それはもう、東北なんかじゃない、東京でM9を超す規模だから。前にどこかの大臣が東日本大震災について『東北でよかった』なんて言って職を追われたけど、あれは正しいんだ。東京で大きな地震が起きると、さっき言っていた千兆の借金と合わさって、日本は壊滅状態になっちゃう」
「え……」
「でも、櫻井くん、そんな話聞いたことないでしょ。だって政府はその事実を隠しているから。今そんな事実を発表しても、騒ぎが大きくなるだけだから、奴らはその日が来るまで、地震が東京を襲うその日までその事実をひた隠しにして、奴らだけ海外に逃げようとしてる」
「そんな……」
リアクションを取りながら、僕は加藤が「奴ら」という部分で語気を強めているのを感じ取っていた。
そしてその中で、僕はある可能性に気づきつつあった。予感というべきか、いや、実際にはもう確信していたかもしれない。
話の核心に、確信していたかもしれない。
だって、その時の僕は、めちゃくちゃな論理に頬がひきつるのを、口角が上がるのを必死に抑えながら、わざと加藤の話に戦慄しているかのようなリアクションを取っていたから。
加藤と丸山、彼ら二人の正体とは……。
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