第4話
それから一ヶ月、特段、彼からの連絡は何もなかった。こちらとしては、せっかくの趣味を共有しあえる仲間、色々話しかけようと思ったものだったが、いかんせん最後の最後で踏みとどまってしまうものがあった。かつて一時代を築いたアダルトゲームブランド、「key」の新作が発売されたり、プレイステーション4に移植が決定したゲームの等身大3Dパネルが秋葉原に展示されていたりと、話題になりそうなものはそれなりにあったが、僕はいまいち彼との距離感をつかみかねていた。
というのも、彼は秋葉原で僕と会ったその日、僕の身辺についてあれこれ聞くだけで、友人からアダルトゲームを勧められたという情報以外、何一つ自身についての情報を明かそうとはしなかったのだ。それに、同様に彼もあれから一ヶ月、何の音沙汰もなかった。わざわざ秋葉原で友人を作らずとも、そばに彼をアダルトゲームへ連れ込もうとした友人がいるじゃないかという今更の事実に気づいたのだろうか。
そうして、一ヶ月。
『こんにちは! あれからもよく秋葉原には行きますか??』
と、やけにハイテンションな彼からのメッセージで、均衡は破られた。
『こんにちは! 秋葉原には東京観光の帰りに寄るくらいですね。二週間に一度ってところでしょうか』
『そうですかー。あまり行っているというわけではないんですね』
充分行っていると思うのだが、もしかしたら彼はそれ以上の頻度で訪れているのかもしれないと気を使って、それ以上は触れないようにした。
『中野は行かないんですか?』
『行かないですね~。何故に中野? 中野に住んでいるんですか?』
『いえ、中野もオタク文化で有名だと聞いたので』
『へぇー、今度行ってみます』
相変わらず彼は自分のことは話さないし、しかも要領を得ない質問ばかりだなと不審に思いもしたが、後から思えば、彼なりに僕と親密になろうと図ってのことだったのだろう。何とも思慮の足りない、お粗末な会話術だったが。
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