傲慢な人類に
フリーズドライ
破滅
まず始めに感じたのは、何かが焼き焦げるような強烈な悪臭だった。
煙のように、下から上に突き上げられるような酷い臭いだ。
おもむろに視線を足元に落とすと、そこには下半身の無い、若い女性の死体が1つ転がっていた。
何かにすがろうと右手を伸ばし、目と口を限界まで開いたまま息絶えていた。
「・・・」
特にその死体にとりあうこともなく、今度は周囲の状況に視点を転じた。
辺りには、ビルを含む住宅が無造作に倒壊している。電柱も折れ、住宅に食い込んでいた。
時折、ガラガラという屋根の瓦がアスファルトの上へ雪崩落ちる音が聞こえてくる。
見えるのは建物だけではない。人間も見えた。
老若男女は問わない。楽器の演奏のごとく、各々が異なる声音を上げて逃げ惑っていた。
中には、立ち往生してむせび泣いている女児の姿もあった。どうでもいい話だが、きっと親とはぐれたのだろう。
アスファルトには、あらゆる箇所にヒビが入っており、30人に1人の割合でそこで躓いていた。何だかおかしくなり思わず笑った。
空を見上げてみると、絵具で染めたような真っ赤な景色が広がっていた。
あまりの美しさに息を呑んだ。昨日までは青々とした面白味のない空が浮かんでいたが、今日は違う。何て素晴らしい光景なのだろう。
そこから、「マッシュルーム」に似た、真っ白な物体が無数降って来た。
マッシュルーム?いや、違う。
「クラゲ」だ。小さい傘に、10メートルはありそうな、細長い足を垂らしたクラゲだった。
人々の悲鳴は、より一層大きくなる。
その阿鼻叫喚に呼応するがごとく、クラゲ達は人間に足を伸ばした。
両手両足を絡みつかれた人間は、瞬き1つする間も無く、その四肢を千切られた。
縫い糸のように細いクラゲの足だが、その力は目を見張るものがある。
千切った四肢を無造作に捨てると、五体不満足と化した人間に近づき、足の先端で頭蓋骨に穴を開けた。
画用紙を破るように穴が広がり、ズルズルとクラゲの体が内部に進入していく。
ブッチュ、ジュルジュル・・・といった音が響く。
近づいてみると、クラゲは人間の脳ミソを一心不乱に啜っていた。
啜る程にクラゲの体は肥大化していき、全部吸い終わる頃には、マッシュルームサイズから、シメジ程の大きさまで成長を遂げていた。
世界全土で、強烈な地殻変動が起こってから5分後の出来事だった。
「傲慢の限りを尽くしたバツってことだな」
男はニヤリと笑い、踵を返した。
人間という生物は、地球という名の牢獄に囚われた惨めな囚人なのだ。
囚人は、傲慢に振る舞うことを許されてはいない。
これは、あくまでバツなのだ。
傲慢な人類に フリーズドライ @freezedry
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