第12話 バレ。そりゃそーだ。
寺田さん不在のうちにチェストを運び入れたわたしと中原くんはリビングでわたしが作った鶏胸肉の親子丼を食べていた。
「はぁ〜 ねぇ、いおりんにも見せたいから写真撮ったらダメかしら? 」
「決まってんだろ。ダメだよ。」
「でも正直、食器はショボイわね。」
「自分で料理しない人だからな。多分ボクが来るまでスーパーのお惣菜をつまみに酒を飲む生活だったと思うぞ。」
ふぅ〜んと室内を見回していた中原くんはわたしより先に食べ終わり、赤だしのしじみ汁を飲み干した。
「で寺田さん、男でしょ?」
ブフォッ!!
口から米と三つ葉が吹き出した。
「いきなり過ぎんだろ。」
「あらぁ? ユリちゃんはウチにバレていることを知ってたんじゃない? 」
「……リビングに入った時にすぐに表情が硬くなったからな。」
カーテンやソファなどのインテリアが男の趣味ですぐに分かったと言われた。気にしたことがなかったが、改めて見ると確かに渋い色合いのものが多いような気がする。
「で?」
「会って、顔を見るまで知らんかった。向こうもそうだった。」
わたしはテーブルの米粒をティッシュで取りながら、中原くんに経緯(いきさつ)を最初から説明した。
茶化すわけでもなく、疑うわけでもなく、中原くんは真摯に聞いてくれた。
「そんなコトってあるのねぇ。ネット世代って恐ろしいわねぇ。」
「お前もそうだろ。ボクと同い年だろ。それともあれか? サバでも読んでたのか? 」
「イヤだわねぇ。いいオンナには秘密はつきものよ。」
体をくねらせて中原くんは親子丼の出汁くさい投げキッスを飛ばしてきたので、サッと避けて見せた。
「昭和の決め台詞的な言い方やめろ。」
「だいじょうぶなの?」
「まあね。こっちはかなり謝罪案件的なことをやらかしているけど、お説教で済んでるし。一応、性欲はあるから気をつけてくれって。」
「何したのよ? ユリちゃん、男嫌いじゃなかった? 」
目を見開いた中原くんは足を組み替えて、右手に顎を乗せてわたしを見つめた。
「シャワーから上がったところで、もう少しでラッキースケベさせるところだった。次にスッケスケでまる見せのTシャツ一枚で朝のお見送りをした。それから床に座らせて寺田さんの手のひらの上に素足を乗せて鑑賞させた。」
自分の罪を指折り数えていると中原くんがプルプルと震えて怒っていた。
「あんた、土下座ですまないわよ! なにディープなプレイをしてんのよ!?」
「入浴後の時は寺田さんが先に気がついた。朝のはボクはまったく気が付いていなかった。洗面所の鏡に映った自分のさくらんぼで気が付いたから、その場でTシャツをゴミ箱に投げ捨てた。
後の方は酔っていて、判断力が低下していた。その場で土下座した。どっちも寺田さんは許してくれた。」
「ほんっとに! 心広い人と巡り会わせたものね!! 逆に羨ましいわ!! 」
両手を拳にしてテーブルを叩いた中原くんの怒気に身がすくんでしまった。
「10トラヤじゃすまないわよ。」
「羊羹で換算するのはやめてくれよ。寺田さんは甘いのが好きじゃないらしい。」
「あら?」
「日曜日のお昼にフレンチトーストを出したら、ブラックコーヒーで流し込んでた。」
「左党(さとう)なのね。」
「いや、だから砂糖は嫌いなんだって。」
「おばかねぇ。」
よくわからないがバカにされた。
「でも仲良くやっているようで安心したわ。あとは寺田さんの理性がどれだけ持つかにかかっているわね。」
「はやく出てけと言われている。」
「当たり前じゃない。そんなに迷惑かけてんだから。」
「実はそれほど嫌じゃないらしい。」
「まあ、正常な男でしょうからねぇ。眼福くらいに思って、目くじらは立てないでしょうね。そういえばどんな人か聞いてなかったわ。」
「こんな人。」
寺田さんの写真を撮るとは考えたこともなかったので、暇な時によく似てたなぁと思って検索した件の映画の男優の画像を見せた。
「ほーん。で実物は?」
「本当にこんな感じ。これでもう少し線が細くなったら寺田さん。会って見たくなった? 」
「ちょっと興味はあるわね。ユリちゃんがそこまで褒めるってことは余程のイケメンなんでしょ?」
「まあ、顔はいいよ。顔は。」
「上からねぇ。ユリちゃんも顔だけはいいから、お揃いかしら。」
「なんだよそれ? 怒るぞ。」
「だってぇ、おバカなんだもの。仕方がないじゃない。」
「それなら仕方がない。納得の理由だ。」
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