第8話

 波乱の入学式から1ヶ月、早くも学校では体育祭の話で盛り上がっていた。朝のホームルームが始まる前、龍も体育祭の話を持ち出してきた。


「そういや、今日どの種目に出るか決めるらしいけど、淳と星は何に出たいの?」


 龍の言葉に僕はピクリと反応する。僕は運動が全く出来ない。そのため足を引っ張ってしまうから、体育祭は苦手だ。


「えっと…、何があったっけ?」

「星、お願いだからそんくらい覚えといてよ。全学年共通なのが借り物競走と徒競走と学年選抜リレー。1年生の競技が二人三脚リレーとムカデ競争。あとは色別リレーかな。」

「ふーん。じゃ、俺は徒競走にしよ。淳はどれに出る?」

「僕は借り物競走かな。龍は?」

「俺?俺は思いっきり走りたいから、徒競走か学年選抜リレーだな。数が少ない方にする。」

「そっか…2人みたいな運動できる人が羨ましいよ。モテるでしょ、絶対。」


 僕がポロッとこぼした言葉に、すかさず2人が反論する。


「いやいやいや!運動できる人がモテるわけじゃないから!俺なんて運動できるかわりに勉強全く出来ないから!」

「俺は運動も勉強も半分くらいしか出来ないから!つーか淳こそ頭いいからモテるんじゃない?」

「モテてたらとっくに彼女作ってるよ。それよか、今日の宿題プリントやったの?」

「「あ…。」」


 2人とも「しまった」という顔をしている。仕方なく僕がプリントを見せてあげようとすると、どこからかスッとプリントが差し出された。


「よろしければこれを使ってください、星くん。」

「龍は俺の使え。」


 珍しく僕たちの後から登校してきたのんちゃんと幸一が、それぞれの手を握りながらプリントを渡した。受け取った2人はすぐに手を引っ込めたが、「ありがと」と言って自分のプリントを探し始めた。

 僕はその時、違和感を感じていた。いつもは僕の近くでカメラ持ちながら騒いでいるシゲのことが見当たらないのだ。


「ねえのんちゃん。シゲは?」


 僕の問いに何故かのんちゃんはニヤニヤして答えた。


「あれ、あんだけうざったがってたのに気になるんですか?」

「なっ…⁉︎ち、違うしっ!あいつもう風邪引いたのかと思って、気になっただけだし!」

「それ、完全に意識してるよな?案外満更でもねーんだな。」

「だから違うって!」


 運がいいのか悪いのか、ちょうどその時、シゲがドアを開けて入ってきた。


「おっはよー!あれ、淳ちゃんなんでそんな顔赤いの⁉︎熱でもある?ちょっと動かないで…。」

「へ…?」


 ポカンとしてると、シゲの顔が近づいてきた。こいつなんやかんや言って結構なイケメンだから、恥ずかしくなって思わず目をギュッとつぶってしまう。すると、おでこにコツンと何かが当たった。


「うーん…熱はないな。あ、さっきよりも赤くなってる⁉︎」

「お前のせいだから!」

「え、なんで⁉︎」


 その様子を見て、のんちゃんと幸一がクスクス笑ってる。星と龍も、プリント書き込みながら笑いをこらえてる。


「ダイって結構鈍感なとこあるんだな!俺びっくりしたぜ。」

「昔っからあれですよ?溺愛してんのに、全く気づかないんです。」

「そうそう!淳も淳で鈍感すぎるから、見てて超じれったいの。」

「へ〜。でも面白いね!ずっと見てられそう!」

「え、俺って鈍感?淳ちゃんよりはマシだと思うけど…。」

「僕の方がまだマシだよ!つーかいきなりおでこくっつけるな!手をあてるだけでもいいだろ!」


 そんなこんな言い合うのも、今じゃ日常茶飯事。クラスのみんなも笑ってこっちを見てる。最初は友達できないだろうなぁって思ってたらこのやり取りをきっかけに、クラスメイトと話せるようになった。みんなノリがよくて面白い人ばかりで、僕たちの苦労話を笑って聞いてくれる。まあクラスメイトと話してるとそれぞれ視線を感じるんだけど…。


「おーし、お前ら席につけー。出席とんぞー!」


 先生の登場により、みんなガタガタと席に着く。今日は何事も起こらないといいけど、と思いながら名前が呼ばれるのを待った。



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愛されすぎて困るわけ 天宮シオン @ShionAmamiya

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