第6話
顎のラインに切り揃えられた短く深い闇色の髪に、袖や襟から上には異国特有の浅黒い肌が見える。金色の瞳だけ暗闇の中光るように、昔と変わらず曇らずに前を見据えていた。だが、ハッキリ言って別人のようである。
特に気になったのが、あんなにも精霊や妖精に愛されていた彼女の周りを小さな風の精霊すら避けていくさまだ。
それが久しぶりに会った愛弟子を見た感想である。
魔法の師だった彼は、愛弟子の思い出をまぶたの裏に浮かべた。上質な絹のような銀の髪は、足元まで綺麗に伸びている。ローブの下から覗くは真珠のような白く艶やかな肌、さらに琥珀色の瞳はキラキラと輝いていた。周りには色とりどりの生まれたての精霊たちが集まって愛弟子は、幸せそうな顔をしている。思い出すのは美化された記憶ばかりだ。
性別こそ違えど思い出の愛弟子を成長させると今のヴィヴィに似ているのだが、それは魔法でそう見えるようにしてるだけであって生来のものではない。
愛弟子がニンゲン界で苦しんでいることは、他の精霊たちに聞いていた。
だがいざ目にするとあの時、愛弟子を追放と称してニンゲン界に送り出したのは最善だったのか。答えの出ない問いだとわかっていたとしてもヴィヴィは、何度も自問自答した。きっとこれからも繰り返すだろうその問いは、数少ないヴィヴィの人間らしい一面である。
だが、悩みこそすれど後悔はしていない。
ヴィヴィの本質は、精霊である。それは変わらないし、変われない。
まぶたを開く。
前を見据える。
今ヴィヴィに出来ることは、これだけだ。
魔法使いは死んだ。 カオス @khaos_san
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