第4話
人払いした食堂の長テーブルには、上座にアート。下座にマリオンが座っている。食器は既に片付けられていた。お互い何処からもしくは何を話すべきか、考えている。しばらくして、マリオンが口を開いて言葉を発しようとしたらアートが手で制した。
「俺は、マリオンのことを疑ったことはない。マリオンは、魔法使いだった。それはちゃんと信じている。それは分かって欲しい。証拠云々の話はもう何度もした。その話はもうするつもりはないことだけは、信じてくれ」
その言葉を聞いたマリオンは開いた口を閉じて黙るしかなかった。今まさにその話からしようとしていたからだ。
「では、何が聞きたい?」
マリオンの問いにアートは気まずそうに目を伏せる。沈黙が続く。お互い手探り状態である。アートは珍しく舌打ちをした。
「不本意だが、上からのお達しが来たんだ。さっき話した妹弟子に心当たりがあるものは情報提供するようにと。でも俺は、黙っていた。なのにあの魔法使いは俺を真っ先に見て言いやがったんだ」
マリオンは次の言葉を待つ。アートはよほど言いたくないのか金の頭を抱えて苦悩の表情を浮かべる。マリオンにとって魔法使いの行動や発言は、推測しやすい。恐らく精霊に聞いたのだろうと予測できる。しかしアートは違う。魔法とは無縁の人間だ。件の魔法使いの行動は、突拍子のない出来事に見える。
「俺を指差して奴は言った。君、妹弟子を連れて来てくれないか? ってな。周りの驚きようには参ったぜ。俺はガラにもなくアホヅラ晒しちまった」
アートは、苦虫を噛み潰したような顔をして青い瞳を歪ませた。
「それは、申し訳ない事をした」
マリオンは金の瞳を伏せる。
「なぜ、マリオンが謝る? 野郎が勝手に言った事だ」
「名指しで君に頼んだということは、既に確信があるからだ。魔法使いは、基本的に人の話を聞かない生き物なんだ。私に魔法の使い方を教えてくれた人もそうだった。あらかた精霊に聞いて私の事を知ったのだろう。だが私に兄弟子はいない。たぶんとしか言いようがないが、恐らく師匠が魔法で若者に化けて私を確実に見つけに来たのだと思う」
「マリオンが魔法を失ったのは二年前だぞ? その間ずっと放っておいたのに。今更だろ!」
アートは、怒りを露わにした。マリオンはあくまで淡々と返す。
「まだ、言ってなかっただろうか。私は破門されている。理由は人間の争いに魔法を使ったからだ。それに師匠がいる場所は、此処と時間の進み方が違う。たった二年だ。私からすると思っていたよりはやいくらいだよ」
マリオンの言葉で魔法使いの考え方は、他の人間と違う事をアートは再確認させられた。たった二年。されど二年。あの丘でアートが彼女を保護していなかったらどうなっていたか。よくて奴隷。悪くて死んでいた。それくらい浅黒い肌の異人に対してこの国は厳しい。その事をマリオンはまだ理解してないことに、アートはまた頭が痛くなった。
「アート。君には、感謝している。この恩を返そうとしても今の私には何も無い。もし、師匠が私を探しているのなら渡りに船だ。私を都へ連れて行ってくれないか?」
真っ直ぐと金の瞳は、アートを見ている。それでもアートは、頷きたくなかった。本当に彼女の師匠かどうかもわからない人物に会わせる事に、というより自分のモノが他人に取られてしまう不安にかられていた。彼女がモノでないことは分かっているはずなのにと。自分の考えにアートは嫌悪感を抱きつつ両者は譲らないまま、また沈黙が降りる。
均衡は、無遠慮な訪問者によってまた壊された。
「やあ、やあ、やあ。久しぶりだね、可愛い可愛い愛弟子。元気だったかい?」
長テーブルの上に杖に座り浮遊する青年が紫の煙と共に現れた。
とても長い銀髪に金の瞳を持ち白いローブに身を包んだ青年は、まるでいたずらが成功した少年のような顔をし微笑む。
「ああ、お久しぶりですね。師匠」
驚きから先に正気を取り戻したのはこのような現象に慣れているマリオンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます