第5話 初めての特訓
特訓したい魔法を選んで良いと言われたことが嬉しくて、シオンは欲望のままに答えてしまった。あまりに流れを無視したため、テンが信じられないという目で見つめてくる。
〈追尾触手〉はいつか触手プレイをする日のためにと習得しただけの魔法なので、もちろん魔技の場で言うべきではなかったのだが……。エロのことになるとすぐに我を失ってしまうのが、シオンの悪いクセなのだ。
「いや、もちろん魔技に使えそうな魔法だから鍛えてぇって話な? 決して触手プレイの精度を高めたいわけじゃねぇから! 勘違いすんな!」
「な、なるほど……。確かに触手を自由に動かせるようになれば、相手を拘束するのに役立つっすね。相手を拘束する魔法は使い勝手悪いこと多いし、もしかするとこれからの魔技には必須の魔法になるかも……?」
シオンが適当に言い訳をすると、何故かテンの方が乗り気になってしまった。
彼女の妄想には言った当人でさえ「ねぇよ」と思ったが、まぁ意識の低さを咎められなかっただけでも良い。
「じゃあ早速、〈追尾触手〉の特訓をするっすよ!」
「え、マジで!?」
さっきの妄想は社交辞令みたいなものだとばかり思っていたが、テンは本気でそう思い込んでいたらしい。これから触手を出す特訓をするのは確定事項のようだ。
「諦めろ。テンは魔法競技バカだから、一度やると決めたら絶対にやり遂げるぞ」
「えー……。いや、願ってもない話だけどさ……」
ギルが諦めたように呟くので、シオンも心を決めるしかなかった。
自分から言い出したことなので〈追尾触手〉の特訓をするのは問題ないのだが、テンは〈追尾触手〉を完全な戦闘仕様にする気なのが分かってしまい、それだけが気がかりだ。
「よし、じゃあまずは射程を伸ばす訓練っすね! ここから壁の端にむかって触手を出してみるっす!」
「え、おいおい。ここのコーチは俺なんだが……」
「師匠は黙っててほしいっす」
「はい」
いきなり特訓を仕切ろうとしたテンをギルが止めようとするが、完全に無駄に終わった。テンの魔技に対する情熱は、師匠ですら止められないようだ。
「ほら、早くやるっす!」
「わ、分かった……。〈追尾触手〉」
シオンが右手に魔力を注ぎ込むと、右手の平から赤っぽくて細長い触手が十本ほど飛び出してきた。
触手プレイをする分には気にならないのだろうが、こうやって何もないところに触手を出していると恥部を丸出しにしたような気恥しさがある。
「あれー、こんなけしか出ないんすか? もっと伸びないと使い物にならないっすよこれ」
言いながら、テンがシオンの手から伸びている触手をつまんだり遠くに伸ばそうと引っ張ったりしてくる。触手を伝ってゾクゾクとした快感が体を走り抜けていき、絵面的にも気分的にも問題がありすぎた。
触手プレイを楽しむためにこの触手は触覚もオンにしているので、女の子に触られるといけない事をしている気分になるのだ。
「まぁ、射程に関しては他の遠距離魔法を訓練してたら伸ばすコツが見えたりするっすけど……。この魔法の場合、大事なのは拘束力と操作性っすね。シオン君、ちょっと私に触手を巻き付かせてみるっす!」
「え、いいのか!?」
「良いも悪いも、そうしないとパワーが確かめようがないじゃないっすか。魔法を極めるためなら、魔技教室の仲間はいくらでも手を貸すっすよ!」
テンが的外れな怒り方をしてきたので、シオンは恐る恐るテンに触手を巻き付ける。柔らかい肉の感触を感じて、特訓中にも関わらず興奮してしまう。
しかし、そこにテンからダメ出しが入った。
「うーん、弱い。力が弱いっす。それでも男の子っすか?」
「いや、男の子とか関係ねぇし!」
何故か無性に悔しくて、手の平から出た触手に全力を込める。
「あっ、今の良いっすよ! あっ、ああんっ!」
「なんかすげぇ声出てるけど!? お前なんか楽しんでねぇかこれ!?」
「お、思わず声が出ちゃったっす……。次は……もうちょい控えめにお願いするっす」
「まだやんの?」
顔を真っ赤にして息も荒くなっていたが、テンはやめる気がさらさらないらしい。今日はそのまま触手の特訓だけさせられたため、触手の性能だけが異様に向上してしまった。
だが魔技教室を出る頃には、シオンはこれまでにない充実感に包まれていた。
家にはない暖かさがそう感じさせるのだと、彼は帰路についてやっと気が付くのだった……。
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〈追尾触手〉
物理魔法 魅了属性lv.3
効果:赤くて細い、追尾性の触手を十本ほど生成する。長年の練習により、触覚があり自分の意思でも動かせるという高性能さを誇る。テンとの特訓により、射程と捕縛するパワーも向上した。
射程:8メートル
対象:1~10
起動時間:8秒
消費:4
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