第七章 3

 その後も島浦たちのバーチャル世界での生活は続いた。

 喧嘩をすることもあった。それでも最終的には、お互い頼る者が他にいないこともあって、一日から数日で元の鞘に戻るということを繰り返す。

 現実世界の一時間がこの世界の一日の活動時間の十八時間に相当する。

 つまり睡眠時間六時間は現実世界での二十分になる。

 現実世界の時間四時間でこの世界では三日が過ぎる計算だ。

 現実世界一日ではその六倍の十八日。

 現実世界の一週間で百二十六日、この世界の一年は現実世界でおよそ三週間に過ぎない。

 月日はまさに矢のように過ぎ去っていった。

 このゲーム世界において島浦は六十六歳になっていた。

 初めてこの世界を訪れたのが大学二年生、十九歳のときだったから、実に四十七年が経過したことになる。

 とはいえ、現実世界ではまだ二年と七ヶ月ちょっと経っただけに過ぎない。

「この世界での寿命ってどうなってるのかな?」

 島浦はそんな疑問を口にした。

「わからないわ。今までにこの世界でこれだけの長期間過ごしたことがあるのは私たちが初めてだから。人類にとって初めての経験。どうなるのかしらね? 久我さんが一番知りたいところは恐らくそこなんでしょう」

 悪寒がした。未来がなんだか嬉しそうにしているように見えた。

 これが研究者の心理なのだろうか?

 自分が実験台にされているというのに……

『ピロリー』

 着信音だ。

「イベントのお知らせかな?」

 ぼそぼそ呟きながらスマホのメッセージを開く。

「マジか……」

 島浦は驚きの表情を隠せなかった。

「どうしたの? 何かあったの?」

「久我さんからメールが届いた」

 未来も驚きの表情を見せる。

「何て?」

「もうすぐ二人を現実の世界に戻すって。そろそろ二人の健康状態を測りたいと書いてある」

 未来は無言でうなずいた。

「どうする?」

 島浦は未来に意見を聞いた。

「自分たちの健康状態を把握するのは大事だと思うわ。そこまでは従いましょ。だけど……」

 未来は言葉を詰まらせる。

「だけど?」

 島浦は未来の言葉を、語尾を上げて繰り返した。

「だけど、その後は久我君の言いなりになっちゃいけないわ。下手したら、またこの世界に私たちを戻そうと何か策を考えてるに違いないし」

 おそらく未来の言う通りだろう。何か策を考えなくては。

「じゃあ、健康診断が終わったところで、僕が久我さんを羽交い絞めにする。そしたら未来は先に逃げてくれ。僕もその後に何とかして脱出する。久我さんひとりどうってことないと思うんだ」

 うんと無言で未来はうなずいた。

 策と言うにはあまりに稚拙すぎる。第一、島浦が久我を羽交い締めになんてできるのだろうか……?

 しかし、やるしかない。

「恐らく久我さんは健康診断終了後に僕たちを眠らせようとするだろう。久我さんの策略に引っかからないように細心の注意を払う必要がある」

 この日は一日ずっと現実世界に戻った後の作戦について、二人で意見を出し合った。

 そうする間に日は暮れ、この日を終えた。

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