第五章 7
現実世界での二〇分が経過。鳥の鳴き声と共に島浦たちは目を覚ました。
なんだか身体が強張っている感じがする。
「現実世界の自分はいったいこの間、どんな格好をして寝てるんだろうな?」
ふとそんなことを思い、苦笑いをした。
横を見ると、時延がニコニコした表情で島浦の方を見ている。
「どうしたんですか? 何かおもしろい夢でも見たんですか?」
苦笑いしていることがわかるのだろうか? だとしたらどうやって?
「いや、別に何でもないですよ。さあ、今日これからどうするか考えましょう」
なんだかすべてをこのゲームに監視されているような気がする。ちょっと気味悪いと島浦は背中に冷たいものが流れるのを感じた。
「昨日はとにかく行方をくらますのが先決と思って、一日歩き回りました。今日からは誘拐犯を捕まえて、いまの状況を脱するための行動をしていきたいと思います。そのためにまずは時延さんにいろいろと質問させてください」
少し強張った表情を見せる。質問されるということに抵抗感があるのだろうか?
「あなたを追っている誘拐犯について、何か心当たりはありませんか?」
時延未来は押し黙ったままひとことも発しない。
答えられない時の決まり文句をしゃべるわけでもなく、ただ黙っていた。
本当にこの世界の時延未来という人物はノンプレイヤキャラクタなのだろうか?
もしそうであれば、現実世界での本物の時延未来の失踪事件とどんな関係があるというのだろう?
逆にこれが自分と同じ、ユーザーの意思によって動いているキャラクタであったとしたら?
この世界で自分と一緒に誘拐犯から逃げることは、現実世界で助かることとイコールなのか? 知りたいことは山ほどあった。
「わかりません」
ボソボソと小さな声で答えた。
質問してから答えるまで、ゲーム世界の時間にして一、二分経っていたのではないだろうか? 現実世界の時間であれば数秒のことであったかもしれない。
この世界の感覚に慣れてきたのだろうか? だんだん時間感覚というものが変わってきた気がする。
「一度捕まって監禁されてたわけだから、相手の顔は見たんじゃないですか? どんな些細なことでもいいですから、犯人の特徴について、思い出せる限りのことを話してくれませんか?」
時延は目を左右にキョロキョロさせた。明らかに戸惑っている様子だ。
「わからないよそんなの」
そう言った瞬間、目を見開き、口をつぐんだ。
何かおかしい。
これまで共に過ごしてきた時延未来からは聞かれなかった口調だった。
とはいえ、これまでのイベントでもアパートの大家兄弟など、登場キャラクタの口調が突然変わるという現象は経験してきた。いまいちキャラクタを作りきれてない可能性はある。
そんなものかと、この場はやり過ごした方がいいのだろうか?
いくつか質問を続けたものの、何一つ答えてもらえなかった。
これ以上質問しても、おそらく何も得るものはないだろう。尋問はここまでとしよう。
「ちょっと久我さんに連絡取るから、そこで待っててください」
やっと質問攻めの緊張感から開放されたという安堵感からか、時延の表情は柔和な顔つきに戻った。
『時延さんを守るために犯人を追い詰めたいのですが、何かヒントはありませんか? ただ逃げているだけでは何も解決しないと思います。なんとかして犯人を捕まえたいので、何でもいいので関係がありそうなことすべて教えてください。お願いします』
あとは久我からの連絡を待つだけだ。返事が来るまでは動き回ろう。
「一つの場所に留まっていると危険度が高まります。次に何をすればいいか見えるまで、とにかく移動を続けましょう」
時延の手を握り、移動を始める。
彼女は引っ張られるままについてきた。この日、左手には何も感じるものはなかった。
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