第五章 6

 玄関から外に出て、アパートの階段を下りると、相変わらず大家の弟が庭に水を撒いていた。

「おはようございます」

 いつものように、にこやかにあいさつをしてくる。

「おはようございます。すいませんがこの子預かってもらえませんか? お願いします」

 島浦は子猫を一方的に手渡すと、時延をつれアパートの門をそそくさと潜った。

 振り返ると、大家の弟は子猫にべろべろなめられている。

 よかった。猫の方が彼を気に入ってくれたようだ。これで安心して前に進める。島浦たちは先を急いだ。

 商店街を抜け、公園を通り過ぎ、見覚えのない道を時延をつれて脇目も振らず突き進んでいく。

 廃墟のように、誰もいない見知らぬ町をさ迷い歩いていると、突然スマホの着信音が鳴り出した。

 スマホに表示された時刻は午後六時。ゲーム開始のこの世界での時間が午前六時なので、ゲーム世界上ですでに十二時間が過ぎている計算だ。

 着信は久我からのメール受信を知らせるものだった。

 プログラムの改造が無事終了したというメッセージ。

「久我さんから連絡が来ました。一日の最後に僕の部屋に戻されることはなくなりました。どこかで野宿する必要があるのですが、大丈夫ですか?」

 時延はじっと島浦の顔を見つめたまま、静かな口調で答えた。

「それは覚悟の上です。島浦さんと一緒なら私は大丈夫です」

 島浦はなんだか映画のヒーローにでもなったような気持ちだった。

 いまならどんな敵にも立ち向かっていける気がする。例え相手がどんな化け物だったとしても。

「行きましょう」

 その後は言葉を一切交わすことなく、ひたすら移動をした。

 やがて時刻は深夜〇時になろうとしていた。周りには巨大なビルが立ち並んでいる。ビルとビルの間に細い路地を見つけると、時延に提案した。

「今日はあそこで休みましょう。明日どうするかは朝を迎えてからまた決めましょう」

 そう言って時延を引きつれていく。

 そこに辿り着くや否や、データを保存するかどうかのメッセージが現れた。データを保存し、そのままゲーム世界の中で眠りに落ちた。

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