第五章 2
「お前が言ってた時延さんっていう女子大生、見つかったみたいだな」
どうやらニュースで報道されたようだ。島浦は今朝、ネットのニュースを見る暇もなかったので知る由もなかった。
「ああ、そうみたいだな」
あまりしゃべり過ぎてボロを出したらまずい。
幸い教室に入った時間が始業ぎりぎりだったせいもあり、その直後に先生が入ってきて、会話はそこでいったん中断された。
一限目が終わった後、次の教室までの道、大宅が畳み掛けるように質問をしてくる。
「なあ、やっぱりゲームと現実世界の事件は関係してたのか? もしかしてお前がゲームクリアしたから、現実世界でも彼女が発見された、とかだったりするのか? ネットに写真載ってたけど、結構綺麗な人だよなあ。なんかどっかで見たことあるような気がするんだけど。時延さんって人とは何か話したのか?」
まだ誰にも真実を話すわけにはいかない。大宅には悪いけど、ここは話しをごまかすしかないだろうと、島浦は必死に嘘を考えた。
「いや、実はゲームの中ではまだ時延さんを見つけることができてないんだ。やっぱりゲームと現実世界がリンクしてるなんてことはなかったみたいだね」
「なあんだ。やっぱそうだったのか。よかったっちゃあ、よかったけど、つまんないっちゃあつまんないな」
大宅が残念そうな表情を見せた。
「時延さんは今回のモニターの企画の関係者ではあるから、ゲーム内で彼女の名前を使ったのは遊び要素としては有り得ることなんじゃないかな? そもそも久我さんだってノンプレイヤキャラクタとしてゲーム内に登場してたわけだし。」
そこまでいうと大宅の顔が一変した。
「お、そうそう、俺もついにゲーム内で久我さんに会ったぜ。もう少しで虫野さん殺害事件の謎、解明できると思う」
大宅はまだ虫野粋雄殺害事件を解決できていない。なんだかずいぶん差がついたな、と島浦は心の中で感じた。
大宅が久我に虫野粋雄の死体を検分してもらう、という考えに至るにはあとどれくらいの時間かかるだろうか?
「結局、ゲームの時延さん失踪事件は解決できそうなのか?」
ここは嘘を突き通すしかない。矛盾のないように話さないと、と島浦は気を引き締める。
「いや、まだ解決の糸口もつかめない、といった感じだよ。虫野粋雄殺害事件よりも難しそうな感じがしてる。始まって三日しか経ってないから、まだまだこれからって感じかな」
「そっか、だとしたらホントに、実際の事件とはなんも関係なさそうだな」
大宅は少し残念そうな表情でつぶやいた。
島浦は次の教室に着くと、スマホに着信がないかチェックした。しかし、まだ久我からは何の連絡もない。
ニュースサイトも調べてみたが、大宅が言った以上の情報を報道しているところはどこもなく、女子大生が救出されたという事実のみを述べているものばかりだ。
結局その日学校から帰宅するまで、久我からの連絡は一切なかった。
何かもやもやした気分でゲーム始めるのは嫌だった。
そう感じ、いつもと違いニュースサイトを見たりしてゲームの開始を少し遅らせる。
失踪時のニュース記事に時延未来の顔を見つけた。改めて見てもやはり綺麗な人だとため息をつく。
しばらく彼女の情報がネット上に転がっていないかと調べてみたが、さすがにそんな個人情報はどこにも見当たらなかった。
そうこうしている内に三十分、一時間と経過した。しかし久我からは一向に連絡が来る様子はない。
仕方ないので夕食を食べ始めた。弁当を食べ終わってもスマホに着信を知らせるアラームが鳴ることはなかった。
「仕方がない、始めるか」
これ以上は待っていられない。時刻は八時を少し回ったところだった。
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