第五章 1

 現実世界に戻った。島浦はヘッドマウントディスプレイを外し、充電器に刺さったスマホを引っ掴む。

 ニュースはどうなってるだろう? 震える手でニュースアプリを立ち上げる。そして関係ありそうな記事を探した。

 しかし、最新のニュースに行方不明になった女子大生の情報はどこにも見当たらない。

「さすがにまだ記事にはなってないか?」

 ネット上のニュースといえど、記事になるにはそれなりの時間はかかる。ゲームの中で彼女を救出してからまだ数分しか経っていないわけだし。

 もしゲームの世界の出来事と、現実世界の出来事がリンクしているとしても、記事になるのはまだ先の話だろう。

「そうだ、久我さんに連絡しよう」

 島浦の電話に久我は二コール目で出た。

「もしもし久我ですが。島浦さんですか?」

 久我もおそらく連絡を待ち構えていたのだろう。少し声を上ずらせている。

「ありがとうございます。時延が見つかったようですね。ついいまし方、彼女から連絡がありました」

 そうか、よかった。島浦は安堵の息を漏らした。

「彼女はまだ研究所にいるようなので、私はこれからそちらに向かいます。私の方で彼女の様子を確認してから警察に連絡するつもりです。また何かわかりましたら島浦さんにも連絡差し上げますので、今日のところはゆっくりお休みください」

 よかった、今日はぐっすり眠れそうだ。島浦は涙が出そうになったのをグッとこらえた。

「本当にどうもありがとうございました。あっ、そうだ。この度の件なのですが、こちらで真相を掴むまでは誰にも話さないでおいていただけませんか? ご足労いただいた上に、さらにこのようなお願いをしてしまい申し訳ないのですが……」

 久我はあまり余裕がないのか、そうお願いすると一方的に電話を切った。

「はああ、よかった。現実世界の時延未来も何事もなくて」

 島浦は今日の日付と時間を改めて確認した。

 土日だけで解決できた。

「明日から普通に安心して学校に行けそうだ。そうだ、大宅には何て言おうか?」

 久我からは『誰にも話さないでおいて』くれと言われている。 

 ネットニュースにまで取り上げられた『事件』だ。もし現実世界とゲーム世界がリンクしているなんてことが公になれば、モニターの存続に関わる事態になることも予想される。

 誰かにバラせばすぐに拡散するかもしれない。最悪のケース、モニターは中止ということもあり得るだろう。

 このゲームが日常からなくなるなんて、いまは考えられない。

「今回の件は単なる偶然の一致。ゲームの進行と事件とは何の関係もない」

 島浦はそう考えることにした。

 そうしたら心に余裕が生まれたようで

「きれいな人だったな」

 一瞬見た時延未来のことを思い出し、そんなことを呟いていた。

 ゲーム中は無我夢中だったのと、救出した瞬間に強制的に自分の部屋に戻されたので、話しかける暇さえなかった。が、彼女の顔はハッキリと覚えている。

 クッキリとした目鼻立ち。肩まで伸びた黒髪。女優としても十分にやっていける。

 前にも見たことのある人。あのときの説明会で……

 そんなことを考えていると、ふと食べかけのコンビニ弁当が目に止まった。

「今日は疲れたから、これ食ったら風呂入って寝るか。久我さんからも明日までは連絡ないだろうし」

 ゲーム世界で仮眠を何度か取ってはいたものの、疲れていたせいか、この日はぐっすりと現実世界での眠りにつくことができた。

 翌日の朝は遅刻寸前で目が覚めた。朝食も食べずに、学校に走って出かけた。

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