第四章 5

 ゲームを再開してすぐに研究所に行く。ハシゴは掛けられたままだ。

 そのままハシゴを上って、二階の窓から中に侵入しようと試みる。しかし、今度は窓が開かない。

 仕方がないので、再び下にいる男に助けを求めた。

「じゃあ、これで窓を叩き割りましょう」

 男は何の躊躇もなく、そばにあった木槌を持ち出し、窓を叩き割った。

 やっとのことで二階に侵入し調査を進める。しかし、時延未来の姿はどこにも見当たらない。

 何かヒントになるものだけでもないかと思い、二階と庭、一階を行ったり来たりする。しかし、何も見つけられないまま、時間だけが過ぎていった。

 現実世界においての一時間ごとに休憩を挟みつつ、その間にお弁当を買いに行ったり、食事をしたり、トイレに行ったり、時々ゲーム世界内で仮眠を取ったりした。

 そんなことを繰り返していると、現実世界は夜の十一時四十分になっていた。

「そろそろ寝るかな……」

 島浦はそう独り言を呟いたが、すぐに思い直す。

「でも明日、日曜日だからまだ大丈夫かな……? それに途中仮眠取っているせいかあんまり眠くないし」

 その後も寝ようかどうか迷いながらゲームを先に進めた。しかし、現実世界に戻っても一向に眠気を感じない。そんなことを繰り返している内に、いつの間にか夜が明け、朝の六時二十分になっていた。

「ひょっとしたら、ゲーム内で二十分の仮眠を取っているだけで、脳にとっては睡眠時間が十分に足りている状態になってるのかな?」

 そう思った島浦は日曜日は食事とトイレとお風呂の時だけ現実世界に戻り、後はゲーム世界で仮眠を取るという作戦にした。

 すべての部屋を調査した。しかし何も見つからない。島浦は最後の手段と思い、所々にある敷物を引っぺ返し始めた。しかし何も見つからない。

 目につく敷物を全部引っぺ返したところで、もう一度床をじっくり見てみる。すると、一ヶ所だけ他とは色が違う箇所が見つかった。

「ひょっとしてここの部分は他より強度が弱くなっているんじゃないだろうか?」

 そう思って外の男に相談してみた。

「よし、叩き壊してみましょう」

 またしても木槌を持ち出して床を叩き始める。

 しばらくすると見事に床が壊れ、中二階らしき階層が床下に見えた。

 二人は開いた穴をガシガシと蹴って広げる。すると、中二階に下りるための階段が現れた。その階段を下りると今度は鉄製の扉が見つかった。

 扉には鍵がかけられている。二人で引っ張ったり、押したりしてみたがビクともしない。木槌で叩いてみたが扉が開く気配はなかった。

 研究所長やオーナーに聞いても答えが見つからない。時間だけがどんどん過ぎていった。

「お腹空いたな。一旦、現実世界に戻ろう」

 現実世界に戻ってからも、島浦は扉の鍵のことを考えていた。

 鍵と言えば『公開鍵暗号』なんて言葉を聞いたことがある。

「久我さんはプログラマだから詳しかったりするかな?」

 そう思い、食べながら久我に電話をした。

「わかりました。何とかできるかもしれないので、ちょっとだけゲーム世界内で待っていてください」

 そう言ってすぐに電話を切った。恐らく鍵の解読に取り掛かってくれたのだろう。

 食事の途中だったが、休憩時間二十分ぎりぎりだったので、箸を置き、急いでゲーム世界に戻る。

 ゲーム世界に戻ると、すぐに研究所の中二階に向かった。

 階段を下りた所でスマホを確認する。

「あれ? ここ電波が一本も立たないんだ? ここにいたら久我さんからの連絡を受け取れないじゃん」

 再び階段を上がる。

 しばらくするとスマホに久我からメールが届いた。

『暗号を解読しました。現場に行ってもらえればもう鍵は開いていると思います』

 早速、中二階の扉のある部屋に向かった。そして緊張しながらドアノブに手を伸ばす。

 カチャリ。扉が開き、中を見ると女性がひとり。後ろ手にロープを縛られ、口には声を出せないようにタオルが巻かれている。

 無我夢中で女性に駆け寄った。ロープとタオルを解きにかかる。

「時延未来さんですね?」

 女性に向かって話しかけると、その女性はこっくりと力なく首を縦に振った。

 その直後、いつもの音楽が鳴り響いた。

『Mission Complete!!』

 文字が浮かび上がる。

 その瞬間、強制的にいつもの自分の部屋に戻された。

 時延未来に話を詳しく聞きたかったけれども、それはかなわなかった。

 現実世界の時延未来はどうなっているのだろう?

 島浦はゲーム世界を離れ、現実世界に戻った。

 時間は日曜日の夜九時だった。

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