第二章 8
「なあ、スマホ、どこにあるかわかったか?」
大宅が苛立たしげに唐揚げを頬張りながら聞いてきた。
「あのコントを観る限り、恐らく一時間ごとに着信音が鳴るような設定になってるのは間違いないと思う。っていうことは見た目にはわからないような場所に隠されてる可能性は高そうだよな」
島浦はゆっくり考えながら大宅の質問に答えた。しかし、最終的な答までは考えつかない。
「コントの内容をもう一度順番に思い出してみよう」
一つずつ順を追って考えることが解決に繋がると思い、前日観たコント番組の内容を詳細に思い出そうと試みる。
「まず少年がスマホを失くしたと言って泣き喚く」
大宅が口火を切った。この場面について島浦なりの感想を述べる。
「おそらくこの場面は話のきっかけなだけで、スマホを失くしたというそれ以上の情報はないように思う」
大宅もこの意見に同意し、回想を先に進める。
「最初は家族みんなで少年の部屋の中、そして家中を探し回るが見つからない。ここまでは額面通り受け取って、アパートの自分の部屋の中では見つからないよと言っているんだと思う」
島浦の意見に、大宅は今度もうんうんと首を縦に振った。続いて大宅が先の展開を話す。
「事態は大ごとになって街中の人たちが一緒になって探し始める。そして最終的に見つかった場所が街の長老が住む洞窟の中。洞窟、ううん、洞窟なんてあの世界に存在するのかよ」
大宅は箸を持っていない左手で髪の毛をぐしゃぐしゃにかきむしった。
「大家と大家の弟に何か聞いてみれば何かしらヒントが得られるかもしれないな。取り敢えず根気良く調査を進めよう」
結局二人ともスマホがどこにあるかという解答のヒントすら見出だせないまま帰宅の途についた。
もやもやした気持ちでヘッドマウントディスプレイの電源をオンにする。この日も大宅と示し合わせてゲームを開始した。
まずは大家や大家の弟に話しを聞こうと外に出る。
大家の弟はいつものように庭で水やりをしていた。
「おはようございます」
「やあ、おはよう。スマホは手に入れられたかい?」
「いや、まだなんですよ」
そう返事をした直後、背中越しに聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おはようございます」
大宅だ。
「やあ、おはよう。スマホは手に入れられたかい?」
どうやら最初のイベント進行中はこれが大家の弟の決まり文句のようだ。
大宅はその質問を無視して、大家の弟に質問をし返した。
「昨日の深夜にやってたコント番組は見ましたか?」
大家の弟の顔が途端に嬉しそうになる。
「もちろん見ましたよ。むちゃくちゃおもしろかったですよねえ」
そんな『むちゃくちゃ』なんて副詞をつけるほどおもしろかっただろうか? 島浦はこの世界の人々の感覚を疑った。
「まさか最後はあんな洞穴の中まで話しが広がるとは予想外でしたねえ。あの洞穴、ちゃんと表札かかってたの気づきました?」
表札? そんなものあったかな? 島浦は思い出せなかった。
「『男の穴』なんて名前の洞穴があるんですかね? あの番組、ああいう細かいところに注目するのもおもしろいんですよ」
この男は一度スイッチが入ると話が止まらなくなる。まだまだ話は続いていた。
大宅はこれ以上この男の話を聞き続けるのは無駄に思えたのか見切りをつけ、その場を立ち去った。恐らく今度は大家に会いに行ったのだろう。
大宅が去った後も島浦はなんとなくその場を動けないでいた。先程の言葉を頭の中で繰り返す。
「男の穴、男の穴、男の……」
まさか……
島浦はまだしゃべり続けている大家の弟をその場にひとり残して移動を始めた。
大家と大宅が話をしている。島浦はそれを素通りし、前日大家を見つけた場所に向かった。
マンホールのふたを横にどかし、潜り込む。
ゲーム内の時間で十五分。実際の時間で一分弱になるだろうか?
その場でじっとしていた。
『チャララララ、チャララララ』
どこでなっているのだろう? クラシック音楽のような壮大な音楽が聞こえてくる。
音の発信源を見つけようと、キョロキョロと周りを見回した。
すると、壁の一部に、抉り取られて棚のようになっている箇所が見つかった。そこがぼんやり薄く光って見える。
そのぼんやり光る部分を『取る』すると、大音量の短い音楽とともに画面が切り替わり、目の前にデカデカと文字が表示された。
『Mission Complete!!
おめでとうございます!最初のミッションをクリアしました。
OK』
『OK』の文字に焦点を合わせ、目でクリックした瞬間、自分の部屋に戻っていた。
部屋の眺め自体はいつもとなんら変わったところはない。ただ一つ、コマンドの中に『スマホを見る』というものが追加されていた。
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