第二章 7
女子高に移動した。
目の前には立派な門が鎮座している。
その門の前には、それぞれダークグレーとブルーのスーツを着た男たちが二人、腕組みをしながら仁王立ちしている。共に三十代くらいの教師だろう。
まずは女子高の中に入れてもらおうと島浦たちは二人の男に声をかけた。
「あのお、すいません。中に入れさせてもらってもいいですか?」
「ダメだダメだ、この門から一歩でも内側に入ったら警察に突きつけるぞ」
声からも屈強さがうかがえる。二人は怯んだ。
おそらくここで強引に中に入ろうとしたら、本当に警察に突きつけられゲームオーバーの憂き目にあうことは必至だろう。
仕方ない。ここは素直に引き下がろう、と相談して決める。
二人は門から少し離れた所に移動した。それでも男性教員たちは
「帰れ帰れ」
と大きな声を出し、手でしっしっのポーズをして、二人を女子高から遠ざけようとする。
周りを見回すと、教師たちの死角になりそうな壁のある曲がり角が見つかった。
「あそこに行って女子高生の帰宅を待とう。そうすれば女子高生たちの会話を聞けるかもしれない」
島浦がそう提案すると、大宅も賛同してくれた。
「そうだな。いま夕方っぽいから、もう少し待ってれば女子高生たちがぞろぞろ出てくるだろう」
曲がり角に入ったところで声を潜めて待機する。
壁に隠れて先ほどの教員たちの方を覗いた。気づいていないのか仁王立ちの元の姿に戻っている。
間もなく学校から終業を知らせるチャイムが聞こえてきた。
「そろそろ出てくるぞ」
大宅が小声で耳打ちをする。島浦は無言で『うん』と小さくうなずいた。
すると複数の女子高生たちと思われる声が、近づいてくるのがわかった。
二人は壁に身体をぴったりくっつけ、女子高生たちの会話を聞き漏らすまいと耳を澄ませる。
続々と校舎から出てくる女子高生たち。彼女たちの会話は、誰々が格好いいだの、誰々がかわいいだの、とても重要な情報とは思えない。
女子高生の数もだんだん減ってきて、そろそろ諦めムードが漂ってきた頃だった。突然大宅が『おっ』と身を乗り出し、耳をそばだてた。
「夜中のあの番組おもしろいよねえ。あれ観てからじゃないとやっぱ寝れないもん」
島浦にはこれがさして貴重な情報とは思えなかった。しかし大宅はなにやら考え込んでいる様子だ。そしておもむろに小声でつぶやいた。
「睡眠時間よりいくらか早めに自分の部屋に戻って、テレビつけてみれば最後のヒントが得られるんじゃないか?」
たしかに自からテレビをつけたのは、ゲーム開始当初の一回だけだ。それ以後はゲームの記録をする際に強制的に見させられる以外、テレビをつけたことは一度もない。
これまであまり時間を意識せずプレイしてきた。外に出られるようになってからは、一日の終了間際に強引に部屋に戻されるまでは部屋に戻らない。なんとなくそれが当たり前のようになっていた。
だから就寝前にテレビをつけようなんていう発想すらなかった。
「よし、じゃあお互いこれから自分の部屋に戻ろう」
島浦は大宅の提案に同意する。
移動コマンドで自分の部屋に戻り、テレビをつけた。
テレビの上の時計を見るとまだ夜の九時だ。
十二時に寝て、六時に起きるというのがこの世界での設定になっている。就寝までにはまだ三時間あった。
とはいえ、女子高生の言っていた番組が何時に放送されるかはわからない。なのでテレビをつけっぱなしにして、じっと番組を見続けることにした。
「あんまりおもしろくねえなあ。これじゃホントに寝ちゃいそうだよ」
眠気と戦いながら、特段おもしろくもないテレビ番組を観続ける。
時計の針が十一時四五分を指した頃。芸人らしき複数の男女がコントをする番組が始まった。
コントの内容はスマホを失くした男の子が、街中の人たちを巻き込んで探してもらうというものだ。
コント自体はさしておもしろいわけではない。
しかし、コントの題材がスマホを見つけ出す、というまさにいまのイベントと同じ状況の話。絶対にこの中にヒントが隠されていると確信した。
最後まで一言一句聞きもらさじと真剣に。
そして、番組終了と同時にゲーム終了の時間が訪れ、この日のゲームは終了した。
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