第二章 2

 ゲームスタート。

 ワクワクを抑えきれない中、キャラクタ選択画面が表示される。

 そもそもキャラクタは一つしか作っていないので、先ほど作成した島浦には似ても似つかない顔が表示されているだけだ。

 そのキャラクタに視点を合わせ、二度瞬きをすると、いよいよゲームスタートだ。

 最初の場面はどうやら部屋の中らしかった。

 目の前にはちゃぶ台が一つ置かれている。その先にはテレビ台の上に置かれた十四インチ程度のテレビが置かれていた。懐かしの映像なんかでしかお目にかかったことのない四対三のブラウン管テレビってやつだ。

 テレビの上には目覚まし時計が置かれていた。

 床は畳で視線の左前方には布団が敷かれている。

 右側を見ると流しがあった。ゲームの世界で洗い物や歯を磨くこともないのでおそらく使うことはないだろう。

 視線を右端に移すと画面が滑らかに動き出した。

 流しの右側には玄関があり、一足だけ靴が置かれている。

 さらに右に視線を移すとカーテンのない窓が見え、その先には最初の画面で左前方に見えていた布団が、画面の右端から現れた。

これで部屋を一周したのだろう。

 これじゃまるで自分の部屋じゃないか。と島浦は感じた。とはいえ、実際の部屋は床が見えないくらい散らかっているが。

 島浦はこの没入感に想像以上の驚きを得た。

「すげえ。あまりにもリアルすぎる」

 この世界に居続けると、だんだん現実世界とバーチャルの世界の区別がつかなくなってくるんじゃないか? 恐怖心すら覚える。

「よし部屋を出てみよう。玄関のドアノブを選択して、っと。あれ? 開かない。まさか外側に鍵かかってんじゃないだろうな? 仕方がない。他のことをしてみよう」

 仕方なくテレビの電源をオンにする。

「ロクな番組やってねえな。こんなの見てても時間がもったいないだけだ」

 続いて流しを試す。水は出るようだ。とはいえ、それ以上何かあるわけではなかった。

 島浦はしばらく部屋の中を探索した。途中、床に紙切れが落ちているのが目に入った。

 その紙切れを拾い上げる。何か書かれている。そこにはこんなメッセージがあった。

『タイムマシン株式会社により創造された、この素晴らしき世界へようこそ。今日からあなたはこの世界の住人に正式に登録されました。この世界では現実世界と同じように、自由に何でもすることが可能です。ただ一つ現実世界と違うのは、この世界で飲み食いしてもお腹が満たされないことくらいでしょうか』

 島浦はうんうんとうなずいた。つもりになっていた。メッセージの先を読み進める。

『この世界で生活するための注意点を以下に挙げますので、よく読んでからこの世界をお楽しみください』

 紙の下の方に箇条書きで注意点がまとめられている。


一.あなた以外のプレイヤも大勢、この世界での生活を楽しんでいます。現実世界と同様、他のプレイヤの迷惑にならないよう節度ある行動を心掛けていただくようお願いします。


二.この世界で、どのような楽しみ方をするかはあなたしだいです。街中で行われているイベントに参加したり、ただ単にこの世界の生活を楽しんだりと、楽しみ方は人それぞれ多彩です。イベントも各種施設もこれからどんどん増え続けるのでお楽しみに!


三.この世界は、現実世界時間換算で、一時間が経ちますと強制的にいまいる部屋に戻され、就寝となります。その後、現実時間で十二時間以上経過しないと目覚めることはできませんのでご注意ください。また十二時間経過していても、現実世界で、前回プレイ終了時の翌日にならないと目覚めることはできませんので、ご注意ください。


四.現実世界の一時間は、この世界の十八時間に相当します。その後、再びこの世界で目覚める時は現実世界で何時間経過していようが六時間後となります。


五.この世界のどこかにあなた専用のスマートフォンが隠されています。スマートフォンがあれば電話やメールをすることが可能になります。またそのスマートフォンを通じてイベントの案内等される場合もあります。最初に必ず手に入れてください。


「これ、ただの注意書きじゃないな。五番ってファーストミッションだったりする?」

 スマホを手に入れる。

 どうやらこれがファーストミッションかと島浦は合点した。

「よし、やってやろうじゃねえか」

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