第4話 社会人
あたしは結局、大学卒業後は研究職の道へ進んだ。いじめを機に人との関わりをなるべく避けてきたあたしには、コミュニケーション能力というものが壊滅的に欠けていることに早くに気付いたのだ。患者さんとやり取りする際に、愛想を振り撒けない。それは、あたしの目指していた薬剤師像からはかけ離れているものだった。
対して彼は、当初あたしが目標としていたような薬剤師になっていた。そうして就職先が別れてからは、これまでとは比べ物にならないくらい、顔を合わせる頻度が減った。
「卒業したら、こんなもんか」
最初はあたしも、そう思っていた。連絡は変わらず取っていたけれど、無精なあたしから何かを送ることは殆どない。大抵は彼から送られてくるものに対しての返信だけ。会おうと言うのも、彼のほう。あたしがそれを断ることも、なかったのだけれど。
そんなある日、彼からの誘いで、あたしたちはお互いの休日がかぶった日に共に食事を取った。食後すぐに帰るのもなんだということで、暫く辺りを散策する。道端に停まっていた屋台でクレープを買い、花壇の傍のベンチに座る。これで恋人じゃないって言うんだから、一体なんの冗談だろう。
ふと、あたしの携帯が揺れる。彼に断って確認すると、会社の同僚の男性からの業務連絡だった。休みの日に無粋だな、と思ったけど、最後の一文に添えられた軽い冗談にフッと微笑む。次の瞬間、手元の携帯は弾き飛ばされていた。
絶句して顔を上げる。そこには傷ついた顔をした彼がいた。何? なんなの? 今ので傷つくのは、あたしのほうでしょ? なんで貴方が、そんな顔をしているの?
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