第3章 あなたが僕の名前を呼ぶ

半月後、ユウは自分の部屋でスマホの画面を睨みつけていた。

イベント開始は、15時から1時間の間。現在14時半。

加藤によると、「アリス学園の議事録は、今期大人気のアニメだから、電話なかなかつながらないと思うな、、繋がったらそのまま宝くじ買ったほうがいいよ!」らしい。

ユウは、もちろん秋月紗綾に電話をかける予定だ。


イベント開始時刻5秒前、4、3、2、1、、、

あらかじめ入力しておいた番号を確認し、通話ボタンを押した。


「ただいま、回線が混み合っております。恐れ入りますが、そのままお待ちください。」


少しホッとしながらも、ユウはそれから何度もかけ続けた。


イベント開始20分が経過し、諦めかけていたその時、呼び出し音が変わった。

一気に緊張感が湧き出し、唾を飲み込む。

呼び出し音が途切れる。


「あ、もしもし?」


何度も、テレビ越しに聞いていたあの声だった。


「あ、あの、あ、秋月、紗綾さんですか?」


「はい。アリス学園の議事録で桜宮葵の声を担当させてもらってます。」


全身がカーッと熱くなるのを感じた。


「あの、俺、斉藤ユウって言います!秋月さんの声素敵だなって思って、、」


「ふふっ。ユウくん、ありがとうございます。」


名前を呼ばれた嬉しさで、気が遠くなってしまいそうになるのを堪え、ユウは口を開いた。


「秋月さんって、本当にいるんですね、、ネットで調べてても、全然情報とか出てこないし、もしかしたら実在しないんじゃないかとか思ってたんですけど、、こうやって直接お話しできて嬉しいです!」


少し間が空いて、「はい、私も嬉しいです。」と、秋月紗綾が静かに答えた。


イベントで、キャストの声優と話せる時間は正味3分。

その後、ユウは秋月紗綾の声を頭の奥に残そうと、必死で会話を続けた。


「じゃあ、そろそろ時間ですね。ユウくんとお話しできて良かったです。」


「あ、」


ユウが、秋月紗綾の静かな声に返事をしようとしたところで、電話が切れた。


ツー、ツー。


残酷なほどに静かな時間が流れる。


ユウは、受話器を手に握ったまま、ベッドに倒れこんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

画面越しの君に僕の声は届かない 坂本 由海 @nanaurara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ