第2章 一枚の写真
「秋月紗綾」。この名前がユウの頭の中で何度もこだまする。
そのままスマホで秋月紗綾について調べ続ける。
出てきたのは、宣材写真一枚のみ。
名前の通り爽やかな印象を与える淡いブルーのワンピースを着て立っている。
肩の長さまである緩くカールされた茶髪から、今にもシャンプーの香りが漂ってきそうだ。
写真の中でも一段と目を引くのが、秋月紗綾の凜とした表情である。
まっすぐ向けられた視線は、どこか寂しげで見る者に何かを訴えているような印象すら与える。
以前に何処かで会ったことがあるような、ないような、ユウは不思議な感覚を抱
いていた。
ユウは、流れっぱなしのテレビに目もくれず、秋月紗綾について調べ続けた。
幾つかの声優雑誌やアニメ雑誌に掲載されているのは、どれもインタビューばかりで、写真は宣材写真のほか一枚も見つからなかった。
次の日、もやもやした気持ちのまま、登校したユウは加藤に開口一番、
「秋月紗綾ってどんな人?」と突っかかるようにして聞いた。
「なんだよ、急に。秋月紗綾?声優の?メディア露出嫌いだから、宣材写真一枚しか出てこないって有名な人のこと?」
「そう!その人!!」
「それ以上は分かんないんだよなー。アニメのイベントにも一切出たことないらしくて、実際会った人はいないって噂だよ。俺も一時期ハマって調べてみたことあったけど、全然出てこないから諦めたな。」
物知りの加藤から有益な情報が得られなかったユウは、がっかりしながら、自分の席へついた。
授業中も、先生の言葉は右から左。ユウはどうしたら秋月紗綾について知れるか必死に考えを巡らしていた。
帰宅後、秋月紗綾について調べていくうちに、次第に情報が掴めてきた。
「スタービジョン」所属の、デビュー3年目。コールセンターでバイトをしていたが、声がいいと所属事務所の社長直々にスカウトされた。
ユウは、秋月紗綾の出演アニメを片っ端から見た。何度聞いても、すーっと心の奥に入ってくるような落ち着いた声だった。声の特徴からか、どの作品も落ち着いた冷静さを持ったキャラクターを担当することが多かった。
検索していくと、ふと妙なスレッドを見つけた。
「秋月紗綾は実在しない?声優関係者が語る真実とは....」
ユウは、考えるよりも先にそのスレッドをクリックしていた。
そこには、秋月紗綾のメディア露出が少なすぎることが原因で、一部の界隈で実在しないのではないかと、実しやかに囁かれているというものだった。
「まさか、ロボットだったりして、、」
ユウはそんなことを考えながら、スマホをベッドに放り投げ、天井を見つめた。
それから数日後、学校でいつものように加藤と山田の三人でアニメ談義をしていた時、急に加藤が声を上げた。
「おい!!!ユウ!「アリス学園の議事録」イベントするらしいぞ!!なになに、えっと、今回はファンの皆様にキャストを身近に感じてもらおうと、指定の電話番号にかけるとキャストと生電話できる、おしゃべりイベントを行います、だってよ!!」
スマホの画面をユウの顔面に近づけながら、加藤がユウに近づいてきた。
「貸せ!!」
加藤のスマホを奪い取り、ユウは食い入るように画面を見つめた。
イベントは、半月後行われる。日時が指定されており、話したいキャストの番号にかけていくというものだ。
その中に、
「あった、、、」
秋月紗綾の名前を見つけた。
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