第1章 声との出会い

私立三条高校に通うごく普通の高校二年生・斉藤ユウ。

成績は中の上、友達は多くはないが少なくはない。

帰宅部で、苦手な教科は数学。

最近の口癖は「めんどい」だが、そんな彼にも趣味くらいはある。


それは、アニメを見ること。

放課後、教室を一番に出て、ダッシュで家に帰る。

家に着くなり、自分の部屋にこもって録画しておいたアニメを観る。

学校では、よく一緒にいる山田と加藤の三人でアニメ談義をするのが日課だ。


そんなある日の休み時間、情報通の山田と来期のアニメについて熱く語っている時のことだった。

「おい、ユウ。今度の春アニメどれ見る?良作多すぎて決めらんないよなー。時間どんだけあっても足んないよ。」

加藤がスマホの画面をスクロールしながら言う。

「これだけは外せない!ってやつとかないの?」

顔を自分のスマホに向けたままユウがつぶやく。

「アリス学園の議事録、かな、、、」

そう言った加藤の方を目だけで見る。

「ふーん、それ面白いの?」

「面白いかどうかは分かんないけど、福アニが作ってるからな、気になるなーって。」

福アニとは、アニメ制作会社「福岡アニメ」の略称で、数多くの人気アニメを手掛けている。

細かい風景描写に定評があり、アニメファンだけではなく幅広い視聴者の心を鷲掴みにしている。

「もう来週から始まるみたいだけど。」加藤が付け足す。

「アリス学園の議事録、か、、チェックしとくわ」


次の週、終業チャイムと同時に教室を飛び出そうとしたユウの手を加藤が掴む。

「今日!議事録!忘れんなよ!」

「痛いって、わかったわかった!じゃあな!」

手を強引に振りほどきながら、下駄箱へと走った。


誰もいない家に帰り着き、冷蔵庫からキンキンに冷えたコーラを手に取り、自分の部屋へ駆け上がる。

電気はつけずに鑑賞するのがユウのスタイルだ。

早速テレビをつけ、コーラを飲む。


ちょうど「アリス学園の議事録」のオープニングが始まった。春アニメということもあり、桜の描写がとても細かく美しい。

本編が始まる。

桜の木が立ち並ぶ公園で、主人公・桜宮葵の第一声。


「私、あなたのことが好きみたい。」


ユウの時間が止まった。

透明感溢れる、ずっと聞いていたいと心の底から思えるような声だった。


今まで数え切れないほどのアニメ作品を見てきたユウだが、キャラクターを好きになることはあっても、声を好きになることはなかった。


ユウは、じわじわと広がる感情の正体に気づいた。


「俺、この声好きだ。」


アニメそっちのけで、スマホを手に取り「アリス学園の議事録 桜宮葵 声優」と検索した。


高鳴る鼓動が抑えられず、少し手が震えているのが嫌でもわかった。


アニメサイトの記事には、「春アニメ「アリス学園の議事録」主人公・桜宮葵を演じるのは、声優・秋月紗綾(あきづきさや)に決定」と書いてあった。


「秋月紗綾、、、」

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