画面越しの君に僕の声は届かない

坂本 由海

序章 あなたの声が僕を揺らす

「あなたの声が好きです。」


この一言を伝えられたら、どんなに嬉しいだろうか。


形のない対象への恋は、恋と言えるのだろうか。





ある日の夕方、斉藤ユウはいつものように、部屋でアニメを見ていた。



「私、あなたのことが好きみたい。」



テレビから流れてきたその一言が、まるで自分に投げかけられたように、ユウは自分の胸の高鳴りを感じていた。


カーテンを閉め切った真っ暗な部屋に、テレビの光だけが存在感を露わにしている。


テレビの光に照らし出されているユウは、ただテレビの画面を凝視することしかできなかった。


テレビの映像がスローモーションのような動きになり、ユウの目は必死のその声の主を追っていた。


ユウの視線の先には、4月から始まったテレビアニメ「アリス学園の議事録」の主人公・桜宮葵(さくらみや あおい)が大きく映し出されている。


桜の木の下で、散りゆく花びらと共に黒髪の長髪が揺れている。


ユウは、自分の心の中のざわめきの正体が何か、はっきりと分かった。


この声に恋をした、と。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る