彼氏調教の心得


 先日久々に地元に帰省しましたら、高校の先輩と田舎の婚活の話になりました。


 私の地元は田舎なもので、地元に残っている若者の半分くらいは18かそこらで結婚して、20代も半ばに差し掛かれば、「そろそろ2人目を授かるかー!」「おー!」くらい気合を入れている年頃になります。


 もう半分の結婚していない方の若者というと、一度地元を出たものの、なにかしらの事情で地元に帰ってきて、同世代は結婚しているし、なにかと肩身の狭い思いをしているお年頃のようです。当人としては別に結婚するかしないかなんてあまり気にしなくても、特にご年配の方々が「あなたもそろそろ」なんてやんわりソフトにまろやかに圧力をかけてくるのでだんだん若者も不安になってきます。ポリティカルにコレクトネスな世界で正しいかどうか置いておいて、とにかく田舎とはそういう真綿のような圧力で成り立っているところなのです。


 私の先輩もそういうお年頃の未婚ということで、職場の同僚を彼氏(もしくは結婚相手)候補として品定めしているようです。


 先輩は割と普段から職場にイケメンの同僚がいるとやたらに自慢しますので、先輩それでは職場のイケメンを彼氏にしてみてはいかがでしょうかと聞いてみます。

「職場のイケメンは私の条件を満たしていないのでダメだ。」

 なるほど。条件ですか。どういった条件でしょう。

「あいつは喫煙者でパチンカスだからダメだ。」


 ふむ。


 わたくし、驚愕であります。

 あいにくと喫煙者ではないんですが、街にタバコが溢れていて、そのへんで誰かがタバコを吸っているのが日常の光景でおじさんはタバコを吸うのがかっこいいと思ってた時代をギリギリ知ってるものですから、10年くらいで時代の常識が簡単にひっくり返るのに少しぎょっとしてしまいます。

 健康ということでいえば、むしろ今の方が健全なんでしょうけど。

「喫煙者とキスするとか灰皿舐めてるのと一緒」なんていう名言を昔聞いたことがあります。さすがにそこまで言わなくてもいいんじゃないかと思いました。


 それからパチンコですね。

 田舎っていうのがどういうところかというのを東京の人に説明するのはとても苦労します。テニスコートと別荘が完備されていて、お土産屋さんがたくさんある軽井沢みたいなところをイメージされる方が時々いらっしゃるんですが、あれはディズニーランドみたいなもので、作られた田舎です。

「都会に疲れた顧客に、カントリーライフという体験価値を提供する」みたいなうさんくさい言葉が似合う田舎です。


 本物の田舎というのは、車で走っても走っても、田んぼとガソリンスタンドと、山合にある掘っ立て小屋みたいなラブホテルと、それから役場とパチンコの他にはなにもないようなところをいうんです。

 だからだいたいTVゲームか、車の改造かパチンコかラブホテルが趣味になるんです。そうじゃない趣味を見つけたり、小洒落たビュッフェを開いてお金を稼げる人なんてそうたくさんいるものではないんです。

 いいじゃないですかパチンコ。やったことないけれど。


 いくら講釈を並べても人の好みですからね。

 他は全部許せても、応援する野球チームが許せないとか、雑煮に角餅入れるのが許せないとかありますし、人間ですから1つくらいあるでしょう。


 身近にいる優良物件では条件を満たさない。

 こういう時は不動産を探すのと同じで、条件を満たす方から探したほうがいいんです。

「手頃な年上の独り身の男性とかいないですかね。」

「いるぞ」

「喫煙者でパチンコ好きですか。」

「どっちもしないぞ。」

「よかったですね。それでは……」

「ダメだぞ」

「なぜですか。」

「デブだから論外だ。」


 世知辛い世の中ですね。

 パチンコもダメ。タバコもダメ。二郎ラーメンもダメだなんて。

 他にどんな娯楽が残っているんでしょう。


 ミニバンにBBQセット載せてアウトドアでキャンプするのが好きな男の人は大人気物件ですからとうに完売しております。私も家に一つほしいくらいです。


 とにかく野郎はもともとデタラメな生き物ですから、あれはダメこれはダメと条件を絞ると該当する野郎が少なくなります。

 いいですか、品種改良の世界では常識なんですが上玉はそのへんには生えてません。


 顔とかスタイルはどうにも難しいですから、ヒネてなくて、適度に健康そうなのを拾ってくるんです。それからヤク漬けでもマインドコントロールでも使ってうまいこと育成するものなんです。

 古典的なのだと「胃袋掴む」とかもありますが、どんな手段を使ってもいいです。

 とにかく好みの上玉男子は養殖してください。


 ちなみに育成に失敗すると「この人はワタシしかいないダメな人なんだわ……」みたいな典型的だめんず育成マシンになりかねないのでお気をつけて。


 そんな話を先輩に力説したんですが、どう転ぶでしょうね。


 ちなみに私の夢は他人の披露宴でお祝儀の元を取るくらいローストビーフを食べることです。成人してから一度も披露宴にはお呼ばれしてないんですが。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る