第310話 なんたって、お前は俺の親友だからな
息詰まる剣戟。俺とレックスの剣がかち合うたびにその衝撃で地面が砕け散る。城で戦わなくてよかった。確実にぶっ壊れてたな、これじゃ。
漆黒の剣と黄金の剣が生み出す軌跡は傍から見れば幻想的に見えるだろうな。でも、張本人達はそれどころじゃねぇ。相手の太刀筋に自分の剣を合わせ、必死に受け流す。これを一歩でも間違えれば即座にあの世行きだ。
「動きにキレがないぞ!!バテてんのか!?」
「そうだよ!だから、さっき休ませろって言っただろうがっ!!」
「鍛え方が足りないんじゃないか!?魔法陣ばかりにかまけて身体をしっかり動かさないからこんな事になるんだ!!」
なんだよこいつ!親みたい事言い出しやがったんだけど!まじうぜぇ!!
つーか、なんでこいつはこんな元気はつらつで剣が振れるんだ?目に見える血の量から言っても、俺と同じくらいでかなりボロボロのはずだぞ?
「根性が違うんだよっ!!」
レックスが怒声を上げながら、俺の脇腹を抉る。ぐっ……口の中が血の味しかしねぇ。気を抜いたら血ぃ吐くな、これ。
「くそ、が……勝手に人の頭の中を読むんじゃねぇ!!そういうのはどっかの秘書だけで腹いっぱいなんだよ!!」
俺は顔を歪めながら、アロンダイトを横薙ぎに振った。だが、斬れるのは雨粒ばかりで、肝心のレックスには屈んで躱される。そのまま奴はエクスカリバーを振り上げ、俺の身体に一筋の線が綺麗に刻まれた。
「がっ……!!」
意識が飛びそうになる。でも、気絶なんてしてる余裕はねぇ。なおも追撃を加えてくるレックスに死に物狂いで応戦する。やっぱ斬り合いじゃ勝ち目ねぇな。センスが違いすぎる。
俺はレックスの猛攻に集中しつつも、頭の中で魔法陣を組み上げていった。猪みたいに突っ込んでくるこいつ相手に、ちんたら魔法陣を組成する時間なんてねぇ。かと言って、魔法を捨てたら俺は確実に負ける。
瞬間的に魔法陣の発動ができるのは
だって、俺には
「どうした、クロムウェル!!受けているだけじゃ勝てないぞ!?」
この状況でわずかに笑みを浮かべながらレックスが斬りかかってくる。だが、俺にはわかるぞ。こいつもかなり限界が近い。
俺は無理矢理魔力をひねり出し、相棒に注ぎ込むとそのままエクスカリバーにぶつけた。
「なっ!?」
大きく目を見開き、レックスの動きが一瞬止まる。それを見越していた俺は奴の身体目掛けて右足を振り上げた。
「くっ……!!」
咄嗟に剣を持たない方の手で守りを固めるレックス。だが、残念。そいつも予想通りだ。俺はレックスの身体に自分の足が触れる直前に奴の背後へと転移し、その背中を蹴り飛ばした。
「効、かねーぞ!!」
吹き飛びながら体勢を立て直し、両足で地面に轍を作る。効かないのなんて知ってるよ。俺はお前と距離を取りたかっただけだからな。
さぁ、出てこい……
空中にいる俺の周りに巨大な魔法陣が七つ、一瞬にして組成された。レックスは愕然とした顔でそいつらを見つめる。
火、水、風、地、雷、氷……それに重力。そのどれもが
「そんなやばそうな魔法陣を七つも即座に構築するとか……やっぱり俺の親友は最強で最高だよなぁ!!」
雄叫びとともにレックスの魔力が爆発する。あいつもこの魔法の破壊力を肌で感じ取ったんだろ。全力かけてきやがった。レックスから溢れ出した魔力があまりに凄まじくて地鳴りが半端ねぇぞ。フローラル・ツリーで火山が噴火したくらい揺れてやがる。
天変地異を引き起こすレベルの魔力がレックスの剣に集約していくのを見ながら、俺はゆっくりと息を吐き出した。俺もあいつも掛け値無しの全力だ。…………これで決まる。
「"
「"
俺達は同時に魔法を唱えた。全ての属性魔法を取り入れた俺の十八番。こいつはオリハルコンで出来た訓練場の壁を容易にぶち壊すほどの火力だ。フェル相手に撃った時とは比べられない高密度な極光の奔流がレックスに襲いかかる。
レックスは迫り来る圧倒的な力目掛けてエクスカリバーを振り下ろした。その剣からは神々しい輝きを放つ光の刃が伸びている。人一人じゃ手に余るようなあの量の魔力をあそこまで凝縮させたってのか。まったく……恐れ入るぜ。
そんなデタラメな二つの力がぶつかればどうなるか?どちらも止まることなく、相手の魔法を呑み込みながら俺達のもとにやってくる。
「がはっ!!」
光の刃に容赦無く袈裟斬りにされた俺は思わず血を吐いた。身体からは壊れたシャワーみたいに血が噴き出してやがる。これは完全に致命傷だな。このまま地面におねんねしちまいたい気分だ。多分"
俺は最後の力を振り絞り地面を蹴った。あれ?随分と動きが遅いな。流石に俺の身体も言うことを聞かなくなってきたか?
いや、ちげぇな。景色がゆっくりに見えているだけか。えらく感覚が敏感になってるんだな。
前から血みどろのレックスが突っ込んでくるのが見えた。思った通りだ。あいつのしぶとさは俺が一番よく分かってる。倒れちまうほどのダメージを受けても、気力で向かってくるような奴なんだよ。
俺はレックスを迎え撃つべく、両手でアロンダイトを持ち、上へと振り上げた。……俺の相棒ってこんなに重かったか?もう少しダイエットしてくれないと、今後の付き合いに支障が出るぞ。
なんかこうやって必死の形相でこっちに近づいてくるレックスを見ていると昔を思い出すな。死を間近にした奴が見る走馬灯ってやつか?
俺が魔法陣の腕を上げてからは大して苦戦することもなくなったけど、そうじゃない時はこんな感じで最後まで勝敗がわからなかったっけ。ガキの頃の話だからお互いに得物は伝説の武器と魔剣なんかじゃなく、ただの木の枝とかだったけどな。
あいつが俺に挑み始めたのはいつからだったかな?なんか、どっかの廃墟を二人で冒険してからだった気がする。その時はもうあいつの天才っぷりに気づいていて、一人で魔法陣の特訓をしてたからなぁ。じゃなかったら負けてたぞ。
でも、俺はこいつに負けたことがない。喧嘩ぐらいしかレックスに勝るとこなんてなかったんだよ。それすら負けちまったら、俺はこの太陽に焼き殺されてただろうな。
だから、俺は負けない。今回だってそうだ。いい線いってたけどな?お前の剣が俺の胸を貫くより、俺の相棒がお前の身体を斬り刻む方が早い。それがお前にも分かってんだろ、レックス。諦めた顔で……でも、どこか嬉しそうに笑ってるもんな。
今回も俺の勝ちだ。ざまぁみろ。
勝利を確信した俺は僅かに口角を上げながら、アロンダイトをレックス目掛けて振り下ろす……いや、振り下ろそうとした。
だが、俺の腕は全くいうことを聞かない。
はぁ?なんでだよ。これであのバカをぶった斬れば終わりだろうが。なんで俺の腕は動いてくれねぇんだ?なんで……?
………………あぁ、そうか。
ブスッ。
「…………えっ?」
何かが突き刺さる音の次に聞こえる間の抜けた声。あんまりお前のそういう声を聞いたことがねぇから新鮮だな。
レックスが呆然と俺の胸を貫くエクスカリバーを見つめている。なんて顔してんだよ、お前。めちゃくちゃ馬鹿面じゃねぇか。力無く笑うと、そのままゆっくりと地面に倒れた。その拍子に、俺の胸からレックスの剣が抜ける。
「クロムウェルっ!!」
なんだよ、うるせぇなぁ。こんな近くにいるんだからそんな大声で名前を呼ぶんじゃねぇよ。
「何してんだよお前っ!?」
「何って……見ればわかるだろ……?疲れたから寝るんだよ……」
「そうじゃねぇよっ!!」
レックスの怒鳴り声が耳に響く。頼むから静かにしてくれねぇかな……そんなんじゃ寝れねぇだろ。
「今の勝負はお前が勝ってただろっ!!」
「よく……分かってんじゃねぇか……俺がお前に……負けるわけねぇだろ……」
「だったら何で途中で剣を止めたんだよっ!!これじゃお前……勝ち逃げだろうが……!!」
「……ごふっ」
俺の口から血が溢れる。慌ててレックスが俺の上半身を起こした。こういうのは野郎にやられても全然嬉しくないのな。
「おいっ!しっかりしろっ!!」
「……あんまり顔近づけんなバカ……」
最後の最後に見る顔がムカつくくらいのイケメンとか、やっぱり俺はこいつに呪われてんのかな。
「勝ち逃げ……上等じゃねぇか……。俺は魔王軍指揮官……悪の幹部だぞ……?」
「っ!?…………バカ野郎が……!!」
レックスの奥歯を噛みしめる音が俺にまで聞こえてきた。おーおー悔しがれ。いい気味だ。
って、こいつ泣いてんのか?いや、雨のせいか?俺もこいつもずぶ濡れだからもうよくわかんねぇな。
あー……なんか寒くなってきた。意識も……ちょっと厳しいかな……。眠気がやばい……。レックスが触れている背中だけやけに暖かい……。お前から温もりとか感じたくないから……離せよまじで……。
「なんで……なんでだよ……!!」
まだ寝かせてくれねぇのか……セリスと一緒でこいつも大分スパルタだな……。
「お前に斬られて死ぬのは俺のはずだったのに……なのに……なんで……!!」
なんでって決まってるだろ?
俺の顔に雨粒とは違う温かい水滴が落ちてくる。もう全くというほど身体に力が入らない。寒さすら感じなくなってきた。
そんな事もわからねぇのか?
視界が霞む。こんなに近くにいるレックスの顔すらよく見えなくなってきた。この天気のせいじゃない。雨だったらこんなにも景色が歪むことはないだろうから。
俺がお前を殺せるわけがねぇだろ?
俺は呆れたように小さく笑うと、ゆっくり目を閉じた。
───なんたって、お前は俺の親友だからな。
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